近年、注目を集めている「フェムテック」。
女性の健康に対する理解が深まるなか、「フェムテック」は単なる流行ではなく、社会全体に大きな影響を与える重要な存在へと成長しています。
では、「フェムテック」とは具体的にどのようなものなのでしょうか? また、なぜこれほど注目されているのでしょうか? 今回は、一般社団法人日本フェムテックマイスター®協会の代表理事である、ふちいく子さんに、その背景や可能性について詳しくお話を伺いました。
Profile
一般社団法人 日本フェムテックマイスター®協会(FMA) 代表理事 ふち いく子さん
37歳まで専業主婦をしたのち、派遣スタッフとして福岡ドーム(現:みずほPayPayドーム福岡)で勤務。その働きぶりが高く評価され、39歳で福岡ソフトバンクホークスマーケティング株式会社の営業本部に正社員として採用されます。
法人営業を担当し、仕事の面白さに引き込まれるなかで次々と成果を上げ、トップクラスの成績を達成。その結果、42歳で唯一の女性管理職として課長に昇進。その後も営業部長、新規事業推進本部インバウンド推進室 室長など、重要なポジションを次々に歴任し、2021年に同社を退職。
3人の子育てと両立しながら、男性が多い職場で奮闘してきたふちさん。「女性管理職になると、少し体調が悪いだけで『更年期か?』なんて言われることが多くて、それが本当に嫌でした」と振り返ります。
それでも、社会で男性と同じように活躍するために自分の健康をコントロールしながら仕事に向き合い、女性特有の課題を乗り越えてこられました。
2023年テレビ東京で人気を呼んだドラマ『ドラマチューズ! くすぶり女とすん止め女』の原作者でもあります。
著書『くすぶり女のシンデレラストーリー ― 最強のおんな営業・シンデレラから学ぶ人生を変える3つの原則10のルール ―』。
目次
フェムテックとは
──月経や出産、不妊、更年期など女性特有の健康の悩みをサポートするツールとして注目されている「フェムテック」について教えてください
ふち:
フェムテック(Femtech)とは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語です。
生理、妊活や妊よう性、妊娠や産後、更年期といった「女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するための製品やサービスのこと」と言われていますが、最近では、女性のライフステージに寄り添ったさまざまなサポート商品やサービス、そして知識や情報も「フェムテック」と広く呼ばれるようになってきました。
例えば、生理用のナプキンや月経カップ、生理のバランスを図るアプリ、妊活サプリメント、産後の体型ケアをサポートするための骨盤ベルト、膣ケア用品、更年期のホットフラッシュやイライラを緩和するサプリメントなどがあげられます。
これまで、女性特有の体調に触れることはタブー視されてきました。ですが、女性の社会進出がすすむなかで、少しずつその考え方も変わりつつあります。
フェムテックは、女性が自分の健康を主体的にメンテナンスしながら、自分らしく生きるための大切な一つの手段です。 そして、この動きは、女性だけでなく、社会全体の健康意識を高め、男女の違いを尊重しながら、より豊かな社会を築くための大切な役割を果たしています。
フェムテックとがんの関係
──フェムテックは女性特有の健康課題に焦点を当てていますが、がんとの関係についてはいかがでしょうか?
ふち:
フェムテックとがんには、深い関わりがあります。
特に子宮頸がんや乳がんは、働く世代の女性に多く見られるため、日々の健康管理が大切だと感じます。
たとえば、フェムテックの一つである筋膜リリースを受けた女性が、左胸に違和感を覚えて病院に行ったところ、早期のがんが発見されたという話を聞きました。このような声は多く聞かれ、フェムテックを日常的に活用することで、体の小さな変化に気づきやすくなるのは非常に大切だと思います。
──自分の体に関心を持つことが大切ですね。
ふち:
そうですね。がんは早期発見が鍵を握る病気です。フェムテックを活用することで、普段から体調の変化に敏感になり、何かおかしいと感じたときにすぐに対処できる環境が整います。たとえば、月経の管理アプリで生理周期の異常に気づくことや、更年期の症状の変化を見逃さないことなど、自分の体について知っておくことが、がんのリスクを早めに察知するきっかけになるかもしれません。
──婦人科の定期的な受診も大切ですよね。
ふち:
はい、そうです。女性は日頃から相談できる婦人科を見つけておくことが大事だと思います。産婦人科は「赤ちゃんを産む場所」というイメージが強いかもしれませんが、実際には女性の健康全般を守るための重要な役割があります。
最近は、婦人科ではなくても「ウィメンズクリニック」として女性の体の悩みを相談できる美容クリニックなども増えてきています。
──産婦人科へ行くにはなかなか敷居が高いと感じるのですが、特に学生だと婦人科に行くのが抵抗ある方も多いでしょうね。
ふち:
そうなんですよね。昔は生理痛をド根性論で乗り切っていましたが、現代では生理痛が原因で引きこもりになる子もいます。だからこそ、フェムテックの知識を親御さんにも知ってもらい、できるだけ早い時期からお子さんが自分の体にしっかりと向き合うことの大切さを伝えてほしいです。
──女性特有の体調の変化は、見逃されやすい上に、自分でも「恥ずかしい」「我慢するもの」と思ってしまうことが多いですよね。そういった点でも、フェムテックがもっと普及すると良いですね。
ふち:
フェムテックがさらに広がれば、女性が生理痛や更年期障害などの問題とうまく付き合うことができるようになります。また、周囲の理解が得やすくなるので、がんだけでなく、さまざまな病気の予防や早期発見にもつながっていくんです。
フェムテックが注目されている理由
──フェムテックが注目されている理由について、教えていただけますか?
ふち:
フェムテックの発祥はドイツです。もともとは、女性の健康をテクノロジーの力で支えたいという想いから始まり、それがビジネスの可能性としても広がっていく中で、「フェムテック」という言葉が生まれました。
その後、女性の健康にフォーカスした商品やサービスを提供する企業が次々と参入し、フェムテック市場は急速に成長していきました。
日本でも、この動きは広がりつつあり、関連企業が増える中で、2021年度には経済産業省がフェムテック関連の補助事業をスタートさせ、国としてもその取り組みをサポートしています。
フェムテック事業の事例紹介→https://www.femtech-projects.jp/
──なるほど、そんな背景があるんですね。日本でも注目されるようになった理由にはどういったことがあるんですか?
ふち:
それにはいくつかの理由があります。
1.女性が活躍できる環境づくりのため
まず一つ目は、2016年に施行された女性活躍推進法の影響で、女性が社会でいきいきと働ける環境づくりが進められていることです。
その一方で、女性は働きながらも、生理による不調や妊娠・出産、更年期など、さまざまな体調の変化やメンタルの課題に直面します。
これらの健康問題は、多くの場面で女性の生活やキャリアに大きな影響を及ぼしています。
そこで、フェムテックはこうした女性特有の悩みをサポートする役割として、注目されるようになりました。
2.経済的な損失が生じることが少しずつ理解されてきた
2つ目は、健康課題というと個人の問題と捉えられがちですが、そうではなく、社会として向き合うべき課題という認識が広がってきました。
たとえば、生理痛やPMS(月経前症候群)などで、仕事のパフォーマンスが十分に発揮できない。これによって生じる労働力の低下が、経済に大きな影響を与えていることが明らかになってきています。
そのため、社会全体で女性の健康を支えることが、社会的な損失を防ぐためにも大切で、フェムテックは、そんなサポートの一環として重要視されています。
3.女性の健康意識の高まり
3つ目は、女性自身の健康に対する意識が高まっていることです。自分の体をよく知り、ケアしていくことが大切だと、多くの女性が感じるようになっています。
フェムテックは、そんな女性たちの健康をサポートするためのツールやサービスを提供しており、その存在がますます注目されています。
女性の健康課題は、社会全体の問題
──フェムテックは「女性の健康課題」というところで、男性には関係ないのでしょうか?
ふち:
実は、男性にも大いに関係があります。
例えば、奥さんがある日突然、機嫌が悪くなったという経験を持つ男性は多いのではないでしょうか。フェムテックを学ぶと、それが更年期によるものだと気づき、どう寄り添えばいいのかがわかるようになります。
また、思春期のお嬢さんがいるご家庭でも、生理のことは触れにくい話題だったかもしれませんが、フェムテックを学ぶことで「だからお腹が痛いんだな」と理解できるようになるでしょう。
身近に女性がいる方は、こうしたことが少しずつ分かるようになると、日常のコミュニケーションもスムーズになり、お互いに思いやりを持って接することができるようになります。
女性の体調や気分の変化を理解することで、ただ「機嫌が悪い」と思うのではなく、原因や背景に気づき、適切にサポートできるようになるんです。
──男性がフェムテックを学ぶことで、家族やパートナーとの関係がより良くなるということですね。
ふち:
そうですね。さらに、職場においても女性社員の体調や気持ちを理解することで、より良いチームワークを築くことができるかもしれません。フェムテックを通じて男性も女性の健康について学ぶことは、互いを思いやる大切な一歩なのです。
──体調が悪いときに「そうだよね、女の人は大変だもんね」など、一言いってもらえるだけで、頑張って働こうって思えますよね。
ふち:
その通りです。女性が気持ちよく働ける環境を作るにはどうすればいいのか、と悩んでいる男性経営者や管理職の方も多いです。だからこそ、男性にもフェムテックの知識を持ってもらいたいですね。
さらに、男性にも更年期があることをご存知でしょうか?私たちはおじさんテクノロジー、通称オジテックって呼んでいます(笑)。
男性も40歳を過ぎると、髪の毛の悩みや体力の低下、メンタルの変化など、さまざまな体調の変化を感じることが多くなります。こうしたことも知っておくと、お互いに理解が深まりますよね。
──実際、女性が気持ちよく働ける環境が整えば、会社の成績にも良い影響が出そうですね。
ふち:
そうですね。女性が心身ともに健康でいられることは、家族や職場、そして社会全体にとってもとても大切なことです。フェムテックの知識が広まることで、女性も男性もお互いの健康に寄り添いながら、もっと優しい関係を築いていけるのではないでしょうか。これからの社会には、こうした相互理解がさらに求められていくと思います。
女性の健康に関する知識を広く社会に届ける
「一般社団法人フェムテックマイスター®協会」
──ふちさんが代表理事を務める「一般社団法人日本フェムテックマイスター®協会」について教えていただけますか?
ふち:
私たちの協会は、女性がそのライフステージにおいて直面するさまざまな健康課題についての知識を深め、「フェムテック」の普及を通じて、女性がより活躍できる社会の実現に貢献することを目的に設立されました。
2023年6月に策定された「女性版骨太の方針2023」には、女性の生涯を通じた健康支援や、「仕事と健康課題の両立」においてフェムテックの活用が重要だと明記されています。私たちもこの国の政策と一緒に活動しています。
──具体的にはどのようなことを行われているのですか?
ふち:
大学などの教育現場や企業でフェムテックについてのセミナーを開催し、学生や男性も視野に入れて啓発活動を行なっています。
夏休みには、お母さんとお子さんを200人ほど招待して、フェムテックについて小さい頃から知ってもらえるような楽しいイベントも開催しています。
また、品川女子学院高校では、女子高生たちが自分たちでフェムテックを勉強しているサークルがあり、その高校生のお姉さんたちが、小学生に向けて、生理に関するお話をしてくれます。
たとえば、「いつから生理を知っていたか」や「昔のナプキンはこんな形だったんだよ」など、教えてくれるんです。
やっぱり、大人が小学生に話すよりも、年の近い高校生が伝えるほうが、自然と心に響くものがありますよね。小学生もリラックスして質問しやすいですし、高校生も自分の体験を元に話すので、お互いにとって良い学びの機会になっています。
さらに、お母さん方も興味を持っていただけるような内容を心がけています。たとえば、2人目の出産をどうしようか悩んでいる方や、更年期に差し掛かっている方も多いので、親子で一緒に楽しめるイベントにしています。
生理痛がひどいときはピルを上手に使う方法など、幅広い知識を学ぶ場としても活用していただければと思っています。情報がきちんと行き届けば、自分に合ったケアが見つかりますし、私たちの世代も「昔とは違うんだな」と理解することが大切だと思っています。
フェムテックマイスター協会®では、最近多くのフェムテック商品やサービスが登場している中で、自分に合ったものを見つけられるように、また、生理など女性特有の健康に関するタブーを少しずつ解消し、さらに女性の健康課題が企業にとっても重要な経営課題であるという理解を深めていただけるよう、正しい知識や情報の発信に力を入れています。
2024年11月2日には「第1回 日本フェムテックマイスター協会学術大会」を開催します。
★学術理事 宗田 聡 先生の講演(広尾レディース 院長)
★理事 船水 隆広 先生の講演(学校法人 呉竹学園 臨床教育研究センター マネージャー)
★公認フェムテックマイスター資格を取得して、人生が変わった!体験談
★日常で起こる女性の問題「こんなとき、どうする!?」座談会
★などさまざまな企画を検討しています!
こんな方は、ぜひご参加ください!
💎フェムテックマイスター資格、取得したけどうやって活かしたらいい?
💎フェムテックマイスターで学んだことをアウトプットしていきたい!
💎フェムテック事業、これから取り入れていきたい!
■2024年11月2日(土)
学術大会 14:00~16:30
懇親会(会員のみ)16:30~
■プロラボホールディングス本社 5Fセミナールーム
(東京都三田3‐7‐18 THE ITOYAMA TOWER 5F)
■参加費
会場参加:3,000円 ※定員30名(おみやげ/懇親会費込み)
オンライン:無料
■申し込みフォーム
https://form.run/@fma-QhzN2mU7sP5njhgpLaLT
ぜひ、ご参加お待ちしております!
2025年6月WOMAN Life博を福岡で初開催!
──ふちさんは来年の2025年6月に福岡で開催される「WOMAN Life博」にアドバイザーとして運営に関わられているとお聞きしました。「WOMAN Life博」とはどのようなイベントなのでしょうか?
ふち:
「WOMAN Life博」は、医衣食住やライフスタイル、フェムテック・ケアが一堂に集まり、企業や働く女性に直接アプローチできるイベントです。
WOMAN Life博の開催を通して実現したい事は、
- 誰もが生きやすい社会の実現
- 女性のウェルネス、活躍支援、QOL(Quality Of Life=人生・生活の質)向上の後押し
- 仕事や日常生活においてベストパフォーマンスを発揮できる機会の創出
- 女性のライフステージに寄り添った情報の提供 ・女性特有の生きづらさや息苦しさの解決
多様化する女性のライフスタイルや健康、社会進出に関する悩みに寄り添い解決できる場として多くの方のご参加お待ちしております!
詳細はこちら→https://womanlife-expo.jp/
──「フェムテック・フェムケア」に特化したイベントというのは福岡で初開催です。とても楽しみですね!
フェムテックを通して実現したい社会
──最後に、これから「フェムテック」を通して実現したい社会についてお聞かせください。
ふち:
まず1つ目は、女性自身がもっと自分の体に興味を持って、不調の原因をしっかり追求してほしいということです。
ネットでサッと調べるのではなく、100人いれば100通りのフェムテックがあることを理解して、自分の体のバイオリズムを意識しながら学んでいくことが大切だと思います。
そして、フェムテックがブームで終わるのではなく、数年後には当たり前の存在になっている社会を実現したいですね。
女性が自分の体のことを周りに伝える手段や、自分でケアする商品が当たり前に利用されるようになるといいなと思っています。
そうすることで、女性の人生がもっと生きやすくなり、みんなが生きやすい社会への一歩になると思っています。
2つ目は、男性にももっと理解・関心を持っていただきたい!
企業において組織全体のパフォーマンス向上や風土の改革には、女性の活用が不可欠です。女性が働きやすい会社は、誰もが働きやすい会社。持続可能な企業経営を目指すためにも、ぜひフェムテックについて学んでほしいです。
フェムテックは、私たちの生活をより良くするための大切なツールです。男女を問わず、お互いに理解し合い、協力し合うことで、より豊かで優しい社会を築いていけると信じています。すべての人にとって生きやすく、明るいものになるように、イベントや啓発活動を一緒に進めていきましょう!みんなの力を合わせて、素敵な社会を作り上げていきたいですね。
【インタビュー記事担当者】
編集長:上田あい子
編集ライター:友永真麗
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