女性の死因第2位の心臓病。もっと知ってほしい、女性と循環器疾患のこと

「心臓病は男性の病気」だと思っていませんか?


「心臓病」と聞くと、男性の病気というイメージを持つ人も多いかもしれません。
けれど実は、女性にとっても身近な健康課題の一つです。

心臓病や脳卒中などを含む循環器疾患は、長年、女性の死亡原因として上位を占めてきました。

「女性は、更年期を境に循環器疾患のリスクが大きく変わります」
そう話すのは、日本循環器病予防学会常任理事であり、北里大学医療衛生学部教授の東條 美奈子先生です。

「知らなかったばかりに、重症化してしまう方もいます」
そうした現実を少しでも減らしたい。

東條先生は今、女性の循環器疾患予防を伝える活動に力を注いでいます。

更年期以降の不調の裏に隠れる循環器疾患。さらに、高血圧や動脈硬化などの血管の変化は、将来の認知症リスクにもつながっていくといいます。

“女性の循環器疾患”について、東條先生に聞きました。

Profile

北里大学医療衛生学部 教授。
日本循環器病予防学会 常任理事。
東條 美奈子(とうじょう・みなこ)先生

循環器専門医として長年にわたり診療に携わるとともに、循環器疾患予防や健康寿命延伸に関する研究を行う。

近年は女性の循環器疾患予防啓発にも力を注ぎ、『Go Red for Women® 女性のための循環器病予防・啓発プロジェクト』を通じて、心臓病や脳卒中に関する正しい知識の普及に取り組んでいる。

なぜ今、「Go Red for Women®」が必要なのか

私たちの活動のモデルになっているのが、アメリカの『Go Red for Women®』です。

アメリカでは女性の死因第1位が心臓病で、男性よりも死亡率が高かったことから、2004年に米国心臓協会(AHA)が女性のための心臓病啓発活動をスタートしました。

その活動は大きく広がり、現在では35万人規模の会員を持つ組織へと成長しています。

そして、女性の循環器疾患による死亡率も、男性と同程度まで改善しているんです。
その活動の象徴の一つが、毎年2月の最初の金曜日に行われる「National Wear Red Day®」です。

その日は、テレビをつけるとアナウンサーの方たちが赤いネクタイや赤い服を身につけていたりして、本当に盛り上がるんです。
日本でいうと、ピンクリボン運動くらい浸透していると思っていただくと分かりやすいかもしれません。

私としては、「心臓病の啓発活動=赤」ということを、日本でももっと多くの方に知っていただきたいと思っています。

そこで私たちも、日本で「Wear Red Day」という活動を行っています。

“赤をまとって、循環器疾患について考える日”として、日本循環器学会の会期中や関連イベントで赤いものを身につけてもらったり、SNSで発信したりしています。

8月10日の「ハートの日」には、日本全国40カ所ほどで赤くライトアップする取り組みも行っています。

また、毎年、機関誌「COCORO VOICE」を発刊して無料配布しているほか、米国で心臓病月間とされる2月には「Go Red for Women Japan 健康セミナー」も開催しています。

女性の循環器疾患を多くの方に知っていただくために活動するプロジェクトメンバー(画像提供:東條 美奈子先生)

「Go Red for Women Japan 健康セミナー」には毎年多くの方にご参加いただいています
(画像提供:東條 美奈子先生)

予防や症状について学んでいただくセミナーなんですが、毎年、本当にたくさんの方に参加していただいているんです。

さらに2025年春には、アメリカ心臓協会(AHA)から、日本でのGo Red活動に対してAwardをいただきました。
毎年、AHAから赤いドレスのピンバッジを1,000個送っていただき、活動報告もお送りしています。そうした国際的な交流も続いています。

AHAから送られる赤いドレスのピンバッチ(画像提供:東條 美奈子先生)

それでも、まだ日本では女性と循環器疾患の関係は十分に知られているとは言えません。
だからこそ、女性の循環器疾患について知っていただくきっかけを、一つでも増やしたいと思っています。
そんな想いで、私たちは活動を続けています。

8月10日(ハートの日)では、様々な場所が赤色にライトアップされます(画像提供:東條 美奈子先生)

更年期の不調に隠れる循環器疾患

どうしてそこまで活動を続けているのかというと、女性にとって循環器疾患が、とても大きな問題だからです。

特に女性は、更年期を境に体が大きく変わります。

それまで血圧が低かった方でも、急に血圧が上がったり、コレステロールや血糖値が悪くなったりすることがあります。

女性ホルモンには血管や心臓を守る働きがあると言われています。
だから、更年期を境に循環器疾患のリスクが急に高まるのは女性に特有です。

でも、そのことを知らないまま過ごしている方も少なくありません。

「更年期だから仕方ないかな」
「年齢のせいかな」

そう思っているうちに、高血圧や動脈硬化が進んでしまうこともあります。
そして、その頃になるとさまざまな不調が現れるようになります。

「なんとなくだるい」
「疲れやすい」
「動悸がする」
「顔がほてる」

こうした症状は、年齢による体の変化として受け止められがちです。
でも実は、循環器疾患のサインであることもあるんです。

そのため、「更年期かな」と思っていたら、実は不整脈だった、狭心症だったということもあります。
今まで血圧が正常だった人ほど、
「まさか自分が」
と思いやすい傾向があります。

だから症状があっても、更年期のせいだと思って受診が遅れてしまうことも少なくありません。

女性って、仕事や子育てで忙しい時期ほど、自分のことを後回しにしてしまう方が多いですよね。

だから、体からサインが出ていても、
「もう少し頑張ろう」
「そのうち良くなるかな」
と我慢してしまう。

でも、その時期に起こる体の変化には、ぜひ目を向けていただきたいんです。
その中に、循環器疾患からのサインが隠れていることもあるからです。

女性は“典型的な症状”が出にくい

さらに女性の場合、症状が典型的ではないこともあります。

狭心症や心筋梗塞というと、“胸がぎゅっと締め付けられる”“冷や汗が出る”というイメージを持たれている方が多いと思います。

もちろん、そうした症状が出る方もいらっしゃいます。
でも、女性は必ずしもそうではないんです。

歯が痛い。
顎が痛い。
肩が凝る。
首が痛い。

そういった症状で受診されて、調べてみたら実は心筋梗塞だった、ということもあります。
「なんとなく調子が悪い」 「風邪かなと思っていた」
そんな症状が、実は心臓からのサインだったというケースもあります。

だから、“まさか心臓とは思わなかった”という方が本当に多い。

また、肩こりなら整形外科、顎の痛みなら歯科というように、循環器以外の診療科を受診されることもあります。

もちろん、その症状自体を診ることは大切です。
ただ、原因をたどっていくと、心臓や血管の病気が関係していたということもあります。

そのため、診断が遅れてしまうこともあるんです。

循環器疾患は男性に多いため、今まで、研究や診断は、どうしても男性を中心に進んできた部分があります。

だから私たちが一般的にイメージする心筋梗塞の症状も、
「胸が痛い」
「胸が締め付けられる」
といったものが中心なんですね。

もちろん、それは間違いではありません。
でも、女性は必ずしもそうとは限らないんです。

息切れしやすい。
疲れやすい。
肩こりが続く。
なんとなくいつもと違う。

そういう、一見すると循環器疾患とは結びつきにくい症状で現れることもあります。

“女性の症状は男性とは違うことがある”ということを、もっと知っていただきたい。

症状が軽いから大丈夫。
痛みが強くないから大丈夫。
そうではないんです。

「ちょっと変だな」「なんとなくいつもと違うな」

そんな小さな違和感が、体からの大切なサインであることもあります。

「胸が痛くないから心臓ではない」と決めつけず、女性には女性特有の現れ方があるということを、頭の片隅に置いておいていただけたらと思います。

がんを乗り越えた女性にも知ってほしいこと

最近は、がんを経験された方の循環器疾患も大きなテーマになっています。

抗がん剤の中には、心臓に負担がかかるものもあるんですね。

昔は、治療後に長く生きていくというケース自体が、今ほど多くありませんでした。
でも今は、医療の進歩によって、その後の人生を長く歩まれる方がたくさんいらっしゃいます。

だからこそ、治療が終わった後の健康も、とても大切になってきているんです。

実際には、

「病院に通っているから大丈夫」

と思って、健診を受けなくなる方も少なくありません。

でも、主治医の先生が血圧やコレステロール、循環器疾患のリスクまで、すべて診ているわけではありません。

だから健診は続けていただきたいなと思っています。

せっかく治療を乗り越えたからこそ、その先の人生を元気に過ごしていただきたい。
好きなことを楽しんだり、ご家族や友人との時間を大切にしたり、自分らしく毎日を過ごしていただきたいです。
そのためにも、がんだけではなく、心臓や血管の健康にも目を向けていただけたらと思っています。

血管の健康は、認知症予防にもつながります

認知症と聞くと、年齢を重ねることで起こる病気というイメージを持つ方が多いかもしれません。

でも実は、血管の健康とも深く関わっているんです。
例えば、高血圧や糖尿病を長い間放っておくと、血管が少しずつ傷んでいきます。

すると、脳の細い血管が詰まって、小さな脳梗塞がたくさんできてしまうことがあるんです。
「ラクナ梗塞」と呼ばれるものなんですが、ご本人に症状がないまま進んでいるケースも少なくありません。

たまたま検査をして初めて、「こんなに脳梗塞の跡がありますね」と分かる方もいらっしゃいます。

特に、高血圧や糖尿病がある女性の高齢者では、そういう方を本当にたくさん見てきました。

そして、その小さなダメージが積み重なっていくことで、認知機能の低下につながっていくこともあるんです。

70代くらいになって急に物忘れが増えたり、今まで通えていた病院に来られなくなったり。

認知症というと、年齢だけが原因だと思われがちです。
もちろん加齢の影響はあります。
でも、血管の状態も決して無関係ではないんですね。

循環器疾患は、“心臓の病気”であると同時に、“脳の健康”にも関わる問題でもあります。
心臓や血管を守ることは、認知症予防という意味でも大切です。

“同じように助けてほしい”という想い

女性の循環器疾患について活動している中で、私がすごく考えさせられるテーマの一つが、AEDのことです。

実は、女性って男性よりAEDで助けられる割合が低い、という報告があります。これは海外だけではなく、日本でも報告されているんですね。

理由はいくつかあると思いますが、やはり“女性にAEDを使うことへのためらい”が社会の中にあるんだと思います。

以前、SNSなどで「女性にAEDを使ったら訴えられる」という話が広がったことがありました。でも、実際にはそうした事実はなく、デマだったんです。

ただ、そういう情報が広がってしまうと、いざという時に躊躇してしまう方もいると思うんですね。

でも、本当は一刻を争う場面なんです。
少しでも対応が遅れると、命が助かったとしても重い後遺症が残ってしまったり、高次脳機能障害が残ってしまったりすることもあります。

もちろん、気持ちの問題もありますし、難しい部分があることも分かっています。

でも今は、AEDの中に覆い布が入っていたり、周囲の人が囲って配慮したり、さまざまな工夫もされています。

助かるはずの命を守るために、私たち一人ひとりが正しい知識を持つこと。
そして、必要な時には性別に関係なく手を差し伸べられる社会であってほしい。
それが、女性の循環器疾患に関わる中で、私が強く願っていることの一つです。

“自分は大丈夫”と思わないでほしい

女性って、本当に自分のことを後回しにしてしまう方が多いんです。
仕事が忙しかったり、子育てがあったり、ご家族のことを優先したり。
だから、健診で少し数値が高くても、『まだ大丈夫かな』と思って、そのままにしてしまう。
でも、循環器疾患って、まさにそういう“少しずつ”の積み重ねなんですね。

高血圧や糖尿病、脂質異常症って、すぐに症状が出るわけではありません。
だからこそ、“今は大丈夫”と思いやすい。
でも、その積み重ねが、将来の心筋梗塞や脳梗塞、認知症につながっていくこともあります。

これまでお話ししてきたように、循環器疾患の予防は、単に病気を防ぐためだけではありません。
心臓や血管を守ることは、これから先も自分らしく生活していくための土台づくりでもあるんです。
せっかく長生きできる時代だからこそ、元気に、自分らしく歳を重ねていってほしい。

健診を受けること。
睡眠をしっかりとること。
少しでも体を動かすこと。
タバコを吸わないこと。
そして、“いつもと違う”という小さな違和感を見逃さないこと。


どれも特別なことではありません。
でも、そうした日々の小さな選択が、未来の自分を守ることにつながっていくんです。

まずは、自分の体を知ること。
そして、小さなことから行動してみること。
そこから始めていただけたら嬉しいです。

私たちGo Red for Women Japanでは、多くの方に女性の循環器疾患について知っていただくこと、そして医療従事者にも性差医療への理解を深めていただくことを目指しています。

さらに、女性の健診受診率を高めることや、AEDによる救命率の男女差をなくしていくことも大切な目標の一つです。

そうした積み重ねによって、女性の循環器疾患による死亡率が男性と同等、あるいはそれ以下になる社会を実現したいと思っています。

【インタビュー記事担当者】


編集長:上田あい子

編集ライター:友永真麗

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