
「がんです」
その言葉を告げられた瞬間から、患者さんは“意思決定”の連続に向き合うことになります。
どの病院に行くか。誰に診てもらうか。どんな治療を選ぶか。セカンドオピニオンは必要か。
心が追いつかないまま、判断だけが次々と迫ってくる。そんな状況は決して珍しくありません。
それでも決めなければならない。
「これでよかった」と、自分で納得できる選択をしたい。
けれど現実には、情報が多すぎて迷ってしまう人が少なくありません。
調べれば調べるほど不安が増し、近くの大きな病院だから、親戚に勧められたから、そんな理由で病院や医師を決めてしまうこともあるといいます。
「医療の世界では“普通”の選び方が、患者さんには届いていないことが多いんです」
そう話すのは、がんの病院・医師情報サイト「イシュラン」を運営する株式会社イシュラン代表取締役社長の鈴木英介さん。

▲イシュラン乳がん〜「あなたの名医」を見つけよう〜(画像:イシュラン乳がん公式サイト)
ヘルスケア領域に携わりながら、がん医療の現場とも向き合ってきました。
鈴木さんが強く感じてきたのは、医療者と患者さんのあいだに生まれる“すれ違い”です。
患者さんの困りごとは、必ずしも医療の現場からは見えていない。
だからこそ、その“見えない声”が可視化されれば、医療はもっと変わっていくのではないか。
そんな思いから生まれたのが、「イシュラン」でした。
目指しているのは、“名医探し”ではありません。
患者さんが、自分にとって納得できる医療を選ぶための、確かな手がかりを届けること。
今回の特集では、鈴木さんが掲げる「納得の医療」という考え方と、「イシュラン」誕生の背景にある思いを、じっくりと伺いました。
Profile

株式会社メディカル・インサイト/株式会社イシュラン
代表取締役
鈴木 英介(すずき えいすけ)さん
住友電気工業、ボストンコンサルティンググループ、ヤンセンファーマ(現ジョンソン・エンド・ジョンソン グループ)などでヘルスケア領域に従事。医療用医薬品のプロダクトマネージャーとしてがん領域に携わる中で、患者と医療者の情報ギャップに課題意識を持つ。
「医療は確率論であり、最後に選ぶのは患者さん自身」という考えのもと、納得できる意思決定を支える情報のあり方を模索。
その思いから、がんの病院・医師情報サイト「イシュラン」を立ち上げる。“名医探し”ではなく、“納得できる相手探し”という視点で、医療情報を整理・可視化する仕組みづくりに取り組んでいる。
著書に『後悔しないがんの病院と名医の探し方』(大和書房)。
目次
患者さんの困りごとが“見える”と、医療は変わる
医療用医薬品のプロダクトマネージャーとして、がん領域に携わっていた頃。
鈴木さんは、医療者と患者さんのあいだにある“すれ違い”を何度も目にしてきました。
「医療者は“痛ければ患者さんは言ってくれる”と思っている。でも実際は、患者さんは自分の痛みを言わないことも多いんです」
先生が忙しそうだから遠慮してしまう。
あるいは、「これはがんの痛みじゃない」と思い込みたい気持ちが働く。
痛みは確かにあるのに、それが主治医に伝わらない。
その小さなすれ違いが、結果として治療のタイミングを逃してしまうこともある。
医療者に悪意があるわけではありません。
患者さんも、決してわざと隠しているわけではない。
それでもなお、両者のあいだには“見えない溝”が生まれてしまう。
「患者さんの困りごとや本音が、きちんと可視化されれば、その溝は埋められるはずだと思ったんです」
この気づきが、鈴木さんの原点でした。
見えない声を、どうすれば社会の中で“仕組み”にできるのか。
その問いが、やがて「イシュラン」という形になっていきます。
「どうしたらいい?」という相談から見えた、
病院選びの現実
仕事柄、鈴木さんのもとには、こんな相談が寄せられることがありました。
「がんと診断されたんだけど、どうしたらいい?」
「今この病院に通っているけれど、本当にここでいいのかな」
年に2、3件。
決して多くはありませんが、いずれも人生を左右するような重い相談です。
相談してくるのは、鈴木さんの周囲にいる人たち。
一般的に見れば、情報リテラシーは決して低くない、むしろ高いほうだと言える人たちでした。
それでも、病院や医師の選び方については、意外なほど手探りの状態だったといいます。
「近くの大きな病院だから」
「親戚に勧められたから」
「ネットで調べて、上のほうに出てきたから」
理由は、どれも決して特別なものではありません。
むしろ、多くの人がそうして決めているのではないでしょうか。
けれど鈴木さんは、業界での経験からこう考えていました。
たとえば、がん診療連携拠点病院であるかどうか。
そのがん種に対応する専門医が在籍しているかどうか。
それらはすべて、公的に公開されている情報です。
厚生労働省のサイトや、各学会のホームページを見れば確認できるものです。
けれど、どこを見ればいいのか、どう判断すればいいのかまでは、十分に伝わっていない。
「業界の人間からすると、ごく普通の選び方なんです。でも、それが患者さんには届いていない」
情報は、存在している。
けれど、“選ぶための形”にはなっていない。
その問題意識が、「イシュラン」という構想を動かし始めました。

「イシュラン」の立ち上げに関わったイシュランチームの皆さま
(画像:https://www.sonicgarden.jp/join_us/blog_articles/201608_ishuran1より)
「納得の医療」とは何か
鈴木さんが掲げている言葉に、「納得の医療」があります。
「納得には、二つの側面があると思っています」
一つは、主観的な納得。
患者さん自身が十分な情報を得て、自分の意思を伝え、専門家の意見も聞いたうえで、「これでいこう」と思えること。
もう一つは、客観的な納得。
科学的根拠に基づいた選択であることです。
どちらか一方では足りない。
両方がそろって、はじめて本当の意味での“納得”に近づきます。
たとえば、「納得」を難しくしている代表的な誤解の一つが、「標準治療」という言葉です。
“標準”という響きから、「並の治療」と受け取られることもあります。
けれど本来、標準治療とは、現時点で最も科学的根拠が積み重ねられた治療。
いわば“今のチャンピオン”です。
もちろん、治療には複数の選択肢があります。
副作用や生活への影響、費用の問題も含めて、何を優先するのかは人それぞれ。
時には「治療をしない」という選択肢が議論されることもあります。
大切なのは、比較できる情報をきちんと知ったうえで選ぶこと。
「医療は、白か黒かではなく、確率論なんです」
絶対の正解があるわけではありません。
だからこそ、より確率の高い選択を、自分の意思で選んでいく。
その積み重ねが、「納得の医療」につながっていきます。
そして、そのプロセスに欠かせないのが、“質問すること”。
「先生に遠慮せず、どんどん聞いてほしい。モヤモヤを残したままにしないでほしい」
セカンドオピニオンも同じです。
節目のタイミングで別の意見を聞くことは、決して失礼なことではありません。
むしろ、それを後押ししてくれる医師こそ、信頼できる存在だと鈴木さんは話します。
納得は、誰かに与えられるものではなく、自分でたどり着くもの。
そのために必要なのは、勇気だけではありません。
判断を支える、整理された情報です。
その“情報の土台”をつくること。
それが、「イシュラン」の目指す役割です。
“名医探し”ではなく、“納得できる相手探し”
「イシュラン」と聞いて、“ミシュラン”を思い浮かべる人もいるかもしれません。
けれど、このサイトに星はありません。
「良し悪しを点数で決めるのは違うと思ったんです」
がん治療の主治医は、レストランのように“食べ比べ”ができるものではありません。
患者さんが医師の技量を正確に横並びで評価することも、現実的ではない。
それに何より、人と人との関係には“相性”があります。
リーダーシップを発揮してぐいぐい導いてくれる医師に安心する人もいれば、
じっくり話を聞いてくれる医師に信頼を感じる人もいる。
優劣の問題ではありません。
だからイシュランは、“名医探し”ではなく、
“納得できる相手探し”のためのサイトとして設計されました。
医師は、4つのコミュニケーションタイプで表現されます。
学究型。
リーダー型。
聞き役型。
話し好き型。
どれが優れているという話ではありません。
「自分はどんな医師となら、安心して話せるか」。 そのヒントを可視化する仕組みです。
さらに大きな特徴は、病院単位ではなく、医師単位で情報を掲載していること。
同じ病院でも、主治医が変われば体験は変わります。
だからこそ、専門資格や経歴も含めて、医師ごとに情報を整理しました。
また、がん診療連携拠点病院かどうか、
該当する専門医が在籍しているかどうかなど、
意思決定に重要な条件で絞り込みができるよう設計されています。
もともと存在していた公的情報を、
“選ぶための情報”として組み直したのです。
そして、象徴的なのが「ウォーム30」。
ホットでも、ベストでもない。“ウォーム”。
患者さんから寄せられたポジティブなコメントや投票をもとに、
毎年選ばれる30人の医師です。
業界で有名な医師が必ずしも選ばれるわけではありません。
日々、患者さんと丁寧に向き合っている医師に光が当たることもあります。
ランキングではなく、光の当て方を変える。
それもまた、イシュランらしさです。
もちろん、掲載にはポリシーがあります。
誹謗中傷は掲載しない。
コメントは確認のうえ公開する。
科学的根拠の乏しい治療を前面に出している医療機関は掲載しない。
“情報を載せる”ということに、責任を持つ。
その姿勢があるからこそ、
大きな宣伝をしなくても、利用は自然に広がり、
投票は何十万票にも積み重なっています。
ランキングではなく、相性。
点数ではなく、納得。
「この先生となら、向き合っていけるかもしれない」
そう思える相手と出会えるかどうか。
イシュランは、その可能性を広げるためのサイトです。
変わる医療と変わらない環境
がん医療を取り巻く環境は、大きく変化しています。
治療は高度化し、それに伴い費用も高額化しています。
新しい薬が日本に届きにくいという課題もあります。
一方で、AIの進歩によって診断精度が高まり、
医師の負担を支える可能性も広がっています。
医療は、確実に進化している。
けれど、そのなかで変わらないものがあると、鈴木さんはいいます。
それは、患者さんが“選ぶ立場”にあるということ。
どれだけ医療が進歩しても、
最後に決めるのは、自分自身。
そのとき、自分なりの判断基準を持てているかどうか。
それが、納得できる選択につながっていきます。

イシュランChannelでの情報発信もスタート!(画像:https://www.youtube.com/@ishuranより)
病院選びに迷ったときに
鈴木さんは、こうした“選び方”の視点を一冊の本にもまとめています。
『後悔しないがんの病院と名医の探し方
〜「有名病院」「ランキング」に頼らず、最善の選択を』

本書では、
✔ 標準治療の本当の意味
✔ 名医ランキングの落とし穴
✔ 医師との向き合い方
✔ セカンドオピニオンの考え方
などが、患者さんの立場に寄り添いながら丁寧に解説されています。
もし、あなたや、あなたの大切な人が
「病院、どうしたらいいんだろう」と迷ったとき。
“有名だから”でも、“ランキング上位だから”でもなく、
納得できる相手を探すという選び方がある。
それを知っているだけでも、少し気持ちは変わるかもしれません。
「情報」は、誰かの人生を支える力になる。
情報は、希望になる。
情報は、選択肢を広げる。
情報は、安心につながる。
チアーズビューティーでは、情報格差をなくして安心を伝える取材をしています。
この記事が、
誰かの「どうしよう」を、
小さな「これでいこう」に変えるひとつのきっかけになれば。
そう願っています。
イシュラン 各サイト・イシュラン乳がん https://www.ishuran.com/
・イシュラン血液がん https://blood.ishuran.com/
・イシュラン婦人科がん https://women.ishuran.com/
・イシュラン肺がん https://lung.ishuran.com/
・イシュランMPN(骨髄増殖性腫瘍) https://mpn.ishuran.com/
・イシュラン皮膚がん https://skin.ishuran.com/
・イシュラン消化器がん https://digestive.ishuran.com/
【インタビュー記事担当者】

編集長:上田あい子
編集ライター:友永真麗
