「疾患」ではなく「病(やまい)」を見つめる──現役医学生団体Medipathyがつくる、患者との対話の場

今回、チアーズビューティーで特集するのは、現役の医学生*たちが運営する団体「Medipathy(メディパシー)」です。

取材を通して感じたのは、
「なぜ医学部を目指したのか」
「人に寄り添う医療とは何か」
そうした問いに、学生という立場から、誠実に向き合い続けている姿でした。

医療の現場では、忙しさや効率が優先されるなかで、医師を目指したときの原点が、いつの間にか後ろに押しやられてしまうことがあります。
それは、医師に限らず、多くの社会人にも共通する感覚かもしれません。

人に寄り添うこと。
対話を重ねること。

効率や成果が求められる現場では、人に向き合うことや対話の時間は、後回しにされやすいものです。

それでもなお、「人と向き合う医療を大切にしたい」という思いを言葉にし、行動に移している若い人たちがいます。

その存在を、必要としている誰かに、きちんと届けたい。

「こんな医療のあり方があっていい」
「こういう想いで医師を目指す人が増えてもいい」

そんな希望の選択肢として、Medipathyの活動を紹介したいと思います。

(*設立当時は医学生で、現在は研修医として現場に立っているメンバーも含まれます。)

Profile

Medipathy代表 西岡龍一朗さん

医学生として学びを重ねた後、現在は研修医。患者さんの話を聞き、対話を重ねることを大切にする団体「Medipathy」を立ち上げ、代表を務める。医学生・研修医・医師・患者・社会人が立場を超えて集う対話の場を企画・運営し、医療における信頼関係のあり方や、人と人との関わりを大切にする活動に取り組んでいる。

Medipathy(メディパシー)とは?

「本当にシンプルな活動です。患者さんの話を聞き、対話を重ねていく。それを続けています」

西岡さんは、Medipathyの活動についてそう話します。

安心できる場を心がけ、対話を続けるMedipathy(画像提供:西岡さん)

Medipathyの対話の場には、医学生を中心に、研修医や医師、患者さん、医療とは直接関わりのない人も参加しています。
年齢や立場はさまざまですが、同じ場に集まり、患者さんの話に耳を傾けます。

「話す人と聞く人、というより、その場にいる全員が参加者だと思っています」

患者さんが、自分の経験を語る。
それを聞いた医学生や参加者が、感じたことを言葉にする。
正解を出すためではなく、対話を通して、それぞれの考えを共有していく。
Medipathyが大切にしているのは、そうした時間です。

「患者さんと一緒に、物語を紡いでいく。そんな感覚に近いかもしれません」

この場を通して、「この経験を話せてよかった」「医学生に話したことで、未来に希望が持てた」といった声が、患者さんから寄せられることもあるといいます。

一方で、聞き手からは、「病気というものを、より深く理解できた」「将来、頑張る気をもらえた」といった感想が聞かれることもあります。

「そういう時間や空間を、つくっていけたらいいなと思って、この活動を続けています」

そう西岡さんは話します。

いろいろな機関から講演依頼のお声をいただき、誠実に対応する西岡さん(画像提供:西岡さん

「疾患」と「病(やまい)」という、2つの視点

Medipathyの活動の背景には、西岡さんが大切にしている、ある視点があります。

「病気って、言葉としては一つなんですけど、実は二つの意味があると思っていて…」

そう前置きしたうえで、西岡さんは話します。

一つは「疾患」。

検査やデータを通して医学的に特定される病気で、医療の現場では、この「疾患(disease)」をもとに診断や治療が行われます。

もう一つが、「病(やまい)」。

西岡さんが大切にしている2つの視点(画像提供:西岡さん

医療において、エビデンスに基づいた判断や治療は欠かせません。それによって、多くの命が支えられてきたのも事実です。

ただ、西岡さんは、それだけでは捉えきれないものがあると感じています。

「疾患は客観的に見られるものですけど、病(やまい)は、その人がどう思っているか、どう感じているか、というところなので」

診断名がついた瞬間に、何を思ったのか。

治療を続けるなかで、どんな不安や迷いがあったのか。

そうした部分は、データや数値だけでは見えてきません。

「どちらが正しい、という話ではなくて、患者さんがどう感じているかを、ちゃんと知ろうとすることが大事なんじゃないかな、と思っています」

Medipathyが大切にしている対話は、こうした「病(やまい)」の側に、目を向け続ける時間でもあります。

すべては一人の友人の言葉から始まった

Medipathyの活動の原点には、西岡さんにとって忘れられない、一人の友人の存在があります。

その方は、胆管がんのステージ4でした。

痩せてやつれ、治る見込みがあるとは言えない状況だったといいます。

その方と話す中で、西岡さんは「何を言ったらいいのか、正直、分からなかった」といいます。

医学部で学んでいても、目の前の人の苦しさに、どう向き合えばいいのかは分かりませんでした。病名や治療法を知っていることと、その人の思いに寄り添うことは、まったく別のことだったからです。

そんなある日、その方から、西岡さんはこんな言葉をかけられます。

「龍ちゃん、やっぱり信頼関係って大切やね」

西岡さんは、その言葉を、「遺言みたいな感じだった」と振り返ります。

信頼関係の大切さは、教科書でも繰り返し語られてきました。
決して目新しい言葉ではありません。
けれど、「じゃあ、どうやって築けばいいのか」。その方法までは、誰も教えてくれませんでした。

そんななかで、西岡さんが選んだのが、「まず、患者さんの話をちゃんと聞くこと」でした。

「とりあえず、しっかり話を聞いていこう、って思ったんです。そこから、この活動が始まりました」

対話を続けるなかで、少しずつ見えてきたこと

Medipathyの活動は、患者さんの話を聞き、その場にいる人たちで対話を重ねていく場です。

その時間を通して、参加した人から、さまざまな声が聞かれるようになりました。

患者さんの側からは、
「話せてよかった」
「医学生に話したことで、少し前向きな気持ちになれた」
といった言葉が聞かれます。

一方で、医学生からは、
「病気というものを、より深く考えるきっかけになった」
「将来、医師として頑張ろうと思えた」
そんな感想が聞かれることもあります。

ただ、西岡さんは、こうした反応を「何かを生み出した成果」として捉えているわけではないと話します。

「何か課題があるから、それを解決しようと思って始めた、という感じではないんです。私たちが会をやっている動機って、純粋にこの患者さんのことに興味があって、話を聞きたい、というところが大きいんです」

そのうえで、結果として起きていることについて、西岡さんはこう語ります。

「学生も、がん患者さんも、病気を経験した方も、その後、亡くなった方もいるんですけど、そういう人たちと会っていく中で、結果的に、『病(やまい)』って、どういうことなのかな、というのを知ることにはなっているのかな、と思っています」

10年後も、お酒を飲める交流ができる関係

Medipathyが目指している未来について、西岡さんは「今も、みんなで考えている途中なんです」と前置きしたうえで、こんな言葉を口にします。

「僕としては、10年後も酒が飲める関係性をつくる、というのが、ひとつ目指すところかな、と思っています。10年経つと、僕は医者になりますし、病気が進行する人もいますし、亡くなる方もいらっしゃる。それぞれ状況は変わっていると思うんです」

それでも、10年後、ふとした瞬間にその人のことを思い出せる。一緒に過ごした時間が、自分の中に残っている。

西岡さんが言う「酒が飲める関係」とは、実際にお酒を飲むことそのものを指しているわけではありません。

「古ければ古いほど味がよくなる、というニュアンスというか。時間が経つと、関係性が深くなる、そういう意味です。

たとえ亡くなった人であっても、10年後、ふとした時に思い出せる。その人との関係が、自分の中に残り続けている。

そういう関係を、たくさんつくっていきたいな、というのは、すごく漠然としたものなんですけどありますね」

今のMedipathyは、はっきりとした答えや、数値で示せる目標を定めているわけではありません。それでも、こうした関係を思い描きながら、対話を続けています。

これまでの取り組みと、その広がり

Medipathyの活動は、こうした思いや対話を大切にしながら、継続的に行われてきました。

対話の場は、2020年から2024年にかけて、これまでに70回開催されています。

がん経験者との繋がりも大切にし、イベントへも精力的に参加されています(画像提供:西岡さん

参加しているのは、医学生を中心に、研修医や医師、がん患者さんや病気を経験した方、医療とは直接関わりのない人など、立場や年齢もさまざまです。
これまでの参加人数は、延べ800名にのぼります。

活動の場は、大学や医療機関内にとどまらず、病院や学会といった医療の現場、さらには製薬会社との連携など、少しずつ広がってきました。 その取り組みは、国内のメディアで紹介されたほか、海外の学会や発表の場でも取り上げられています。

大阪国際がんセンターとのコラボ企画(画像提供:西岡さん

特別な仕組みや、大きな組織があるわけではありません。それでも、「話を聞き、対話をする」という営みが、さまざまな場所へとつながっていったことが、これらの事実から見えてきます。

話を聞き合う時間を大切にする場、Medipathy

Medipathyの活動は、何かを教えたり、結論を導いたりするための場ではありません。

どうすれば正しい医療になるのか。
どうすれば患者さんのためになるのか。
そうした問いに、ひとつの正解を用意しているわけでもありません。

ただ、患者さんの話を聞き、対話を重ねる時間を、同じ場で共有しているだけです。

それでも、その場に立ち会った人の中には、何かが心に残っていくことがあります。

医療を目指す若い人にとっては、「人に向き合うとはどういうことなのか」を考え続ける、ひとつのきっかけになるかもしれません。

病とともに生きている人にとっては、自分の経験が、誰かの考えやこれからにつながっていく時間になることもあります。

そして、医療に違和感を抱きながらも、うまく言葉にできなかった人にとっては、「こういう関わり方があってもいい」と感じられる場になるのかもしれません。

Medipathyが大切にしているのは、何かを導き出すことではなく、話を聞き合い、対話を重ねるなかで、人と人との信頼関係を育んでいくこと。

この活動は、今日もまた、誰かと誰かが向き合う時間として続いています。

メルボルンで行われたAYA世代のがんに関する国際学会での講演(画像提供:西岡さん

【インタビュー記事担当者】


編集長:上田あい子

編集ライター:友永真麗

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