「私たちは、がんを早期に見つけ、世界の患者を救いたいという想いで『がんの見逃し根絶』に挑戦しています」
そう語るのは、株式会社AIメディカルサービス(東京都・池袋) 経営企画室責任者の金井宏樹さん。
今回は、日本が世界をリードする内視鏡技術とAI(人工知能)を組み合わせて、内視鏡診断にAIを活用したソフトウェアを開発している同社に、今、世界から注目を浴びている「内視鏡AI」についてお話を伺いました。
目次
見逃しを防ぎ、早期がんを発見する「内視鏡AI」
──今日はよろしくお願いします。最初に「内視鏡AI」とはどのようなものか教えてください。
内視鏡AIとは、内視鏡を使って胃や大腸などを検査するとき、画像診断の際にAIを使って、その画像の中に病変が写っているかどうかを解析するソフトウェアです。
弊社の研究開発品の事例を挙げると、医師が早期胃がん疑いの病変を見つけた際に内視鏡スコープのボタンを押すとAIによる解析がはじまるので、非常に優秀な専門医とダブルチェックしながら一緒に検査するイメージになります。
AIに大量の胃がん画像を覚え込ませて、内視鏡検査の画像中の病変に対し、それがどのくらい胃がんの画像に近いかを示す仕組みになっています。
──どのような背景があって内視鏡×AIの組み合わせとなったのですか。
当社のCEO(最高経営責任者)である多田は現役の臨床医であり、2006年にクリニックを設立してからも、内視鏡医療への貢献をしてきました。その過程で、解決が非常に難しい課題の1つである「人の目による見逃し」という問題に直面していた頃、ちょうどAI画像認識能力が人間を上回ったという話を耳にし、AIを活用することでこの問題を解決できるのではと着想を得て、内視鏡AIの研究を開始しました。世界初の内視鏡AIに関する論文を発表し、この技術を実用化するために2017年に株式会社AIメディカルサービスを立ち上げました。
多田が消化専門ということもあり、私たちは特に消化管に発生するがんである、胃がん、大腸がん、食道がんの領域で開発に取り組んでいます。
実は、日本でがんの部位別死亡数を見ると最も多いのは、消化管のがんであるという事実があります。私たちはこの現状をなんとか改善し、がんによる死亡率を減らしていくことを目指しています。
世界的に見ても、消化管のがんによる死亡者数は多いです。その主な原因の1つとして、早期発見されていないことが挙げられます。
現時点では、消化管のがんを早期に確定診断できる検査は内視鏡検査しかありませんが、全世界で検査が十分に行われているとは言い難い状況です。
胃がんでいうと、海外では日本のような対策型検診やスクリーニングプログラムが存在しない国が多く、例えばアメリカや中国では早期がんの発見が少なく、発見されるのはほとんどが進行がんとなっています。その結果、海外では早期がんのデータを取得することが非常に困難です。
日本は内視鏡医のレベルが非常に高いことと、質のよいデータが大量にあることが胃がんの「内視鏡×AI」を実現できた大きな要因です。
内視鏡医療は世界で見ても日本が一番進んでいます。日本の内視鏡メーカーは世界シェアの98%を占めており、「日本のお家芸」と言われているほどの領域なのです。
さらに、私たちの研究グループには、がん研有明病院や大阪国際がんセンター、東大病院をはじめとする100以上の日本を代表する医療機関に参加していただいており、AIに学習させる膨大な数の内視鏡画像データを継続的に集めることができています。この強みにより、私たちの研究は世界の論文引用数でもトップに位置しています。
このような背景から、私たちは内視鏡×AIの組み合わせで「がんの見逃し」という課題に世界を視野に入れて取り組んでいます。
診断にAIを活用して患者さんの負担を減らす
──内視鏡診断でAIを活用することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
まず、医師と一緒に使うことによってより診断が正確になります。
当然、AIと人が得意な領域は異なります。AIは病変を見つけることが得意なのに対し、人は明らかに病変ではないものを「病変ではない」と言えるところが強み。例えば、画像にハレーションやノイズがあれば、人は簡単に見分けがつくのに対してAIだとその微妙な変化を「病変」として診断してしまうことがあります。両者の強みを持ち寄り、医師とAIが一緒に検査を行うことで、より高い精度で診断できるのです。
よって、医師の診断精度の向上、医師間の診断能の均てん化、医師への教育効果などがメリットとして考えられ、それに伴い患者さんへのメリットは言わずもがな、医療費削減効果もあると考えています。
──「胃がん」に着目した理由を教えてください
胃がんはステージ1で発見すると、98%助かるがんです。しかし、ステージ2以降になると生存率が一気に下がり、ステージ3においては半分の命が救えない状況です。大腸がんに比べるとその落ち方が顕著であり、早期発見で多くの命を救えるのが「胃がん」だからです。
また、例えば大腸がんはポリープががん化するので、比較的早く発見するのに難易度はそう高くありません。それに比べ、胃がんの場合はわかりにくく、見逃される場合があるという特徴もあります。
AIで解析することで見逃しが減り、ステージ1での発見となれば基本的に命を助けることができます。また、内視鏡を用いた切除法なので、胃の摘出手術を行わずに治療が可能であり、患者さんの生活の質(QOL)への影響が少ないという利点もあります。経済的な面からも、抗がん剤治療に比べて費用が5分の1から10分の1程度で済みます。
そういったことから、私たちは胃の領域からアプローチしています。
内視鏡AIが普及した未来
──現在、どれくらい開発が進んでいますか?
最初の第一弾商品はすでに完成していて、当局に製造販売承認申請中です。
承認が得られ次第、製品の販売が可能となりますが、その承認は当局が決定するため、私たちからは具体的な予測が難しいですね。もちろん、それ以降の製品もいろいろとパイプラインが進行中です。
すでに商品化しているものには、対策型胃がん検診用のクラウドソフトウェアなどもあり、内視鏡医療全体をよくしていくために、私たちは新たな取り組みにも挑戦しています。
──今後の展開について教えてください。
部位に関して、胃以外にも大腸や食道も研究開発を進めているところです。
あとは、日本が内視鏡医療において一番進んでおり、さらに私たちの研究グループが世界一と認知されていることから、海外のトップセンターからも興味を持っていただいています。現在、10カ国以上の医療機関と共同研究に向けた協議を進めており、グローバル展開への第一歩は踏み出せているかなと思います。
将来を見据えて言うと、クラウドで独立したソフトウェアとして世界に届けたいです。これにより全世界で日本と同じレベルの内視鏡医療が素早く受けられ、早期にがんが発見される人が増え、世界の患者さんを救うことが叶えられます。
──現在、具体的に海外で取り組んでいる国はありますか?
直近でいうとアジアはありますね。シンガポールを中心としてタイや東南アジアには展開をしていきたいと考えています。
また、私たちの目標の1つに、「胃がんの内視鏡AI」をアメリカへ展開することがあります。
米国食品医薬品局(FDA)という機関がありますが、そこは世界で一番厳しいと評されています。そのため、承認を得ることがなかなか難しく、もし承認されても、アメリカの広大な国土で広げるのは非常に難しいことです。しかし、私たちのビジョンとして数年後には、アメリカでの取り組みも達成したいと考えています。
ただ、そのFDAからブレイクスルーデバイス認定という優先的に審査する対象として認定をいただいています。
日本国内での承認取得を進めながら、世界展開にも全力で取り組んでいるところです。
──最後に、記事を見ている方へ、メッセージをお願いします。
早期にがんを発見することで一人でも多くの命を救い、残念ながらがんに罹ってしまった方でも、苦痛もなくその後の生活も変わらず送れるような世の中を目指してまい進していきたいと思います。
【インタビュー記事担当者】
編集長:上田あい子
編集ライター:友永真麗
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