がんと診断を受けると、それまでの日常が一変し、心には大きな不安が押し寄せます。 今後の治療のこと、生活のこと、そして自分の将来のこと…。頭の中は様々な疑問でいっぱいになるでしょう。そんな時、一番に頼りにするのが医師や看護師をはじめとする医療者の方々です。
しかし、慣れない病院でのコミュニケーションに戸惑いを感じたり、伝えたいことがうまく伝えられなかったり、不安な気持ちをうまく言葉にできなかったり、という方も少なくないでしょう。
今回は、医療者とのコミュニケーションについて、どんな不安があったのか、どのように乗り越えてきたのか、そして、より良いコミュニケーションのためにどんな工夫をされているのか、それぞれの体験を語っていただきました。
参加者の自己紹介
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お住まい:福岡県
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お住まい:東京都
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瀬戸 涼子さん(仮名)・50代(発症年齢:40代)
お住まい:神奈川県
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進行役:上野 さくらさん(仮名)・40代
乳がん8年生、血液がん6年生
医療者との対等な関係づくり
まず、主治医や看護師などの医療者とのコミュニケーションにおいて、普段心がけていることや、振り返って「こうしておけばよかった」と感じたことがあれば教えてください。
主治医は常に忙しく、どこか急かされているような印象を受けて…。ゆっくり話を聞いてもらったり、じっくり質問するのは申し訳ないなと感じることが多かったです。そこで、私は必ず診察前に「これだけは絶対に聞く!」という項目をメモにまとめ、持参していました。
メモ、大事ですよね! 入院中は先生や看護師さんがこまめにサポートしてくれますが、通院になると、こちらが一方的に話を聞くだけになりがち。家に帰ってから「あれも聞けばよかった…」と後悔することが多かったです。たった5分ほどの診察では、自分の伝えたいことを伝えるのは難しいですし。
皆さん、同じような経験をされているんですね。
そうなんです。でも、先生のお話に流されてしまい、メモだけでは聞き逃してしまうこともありました。そんなとき、診察後に近くにいた看護師さんが「何か聞き忘れていませんか?」と声をかけてくださり、改めて確認できたのが本当にありがたかったです。
看護師さんがそんなふうにサポートしてくれるのは心強いですね。
診察室には先生と2人なので、診察後に看護師さんが気にかけてくださるのはとても助かりました。私の病院の外来では、看護師さんが、がん患者さんと立ち話をしていることが多く、話しかけやすい雰囲気がありましたよ。
今思うと、もっと遠慮せずに疑問や不安をしっかり伝えておけばよかったと感じています。初めての経験で病院という場所にも慣れていなかったから、ちょっと萎縮してしまって…。でも先生にとって、私たちはたくさんいる患者の一人。だからこそ、自分から伝えないといけなかったのかもしれませんね。
そうですよ!私の場合は、主治医がとても若く、話しやすい方だったので、聞きたいことは遠慮なく質問でき、言いたいことも言えました。例えば、MRIやCTスキャンの画像を見せていただくとき、「写メを撮ってもいいですか?」とお願いし、撮らせていただきました。
写メいいですね!
他には血液検査のデータも毎回いただき、「この数値はどういう意味ですか?」と質問して、3回分ぐらいの結果を印刷して説明してもらったこともありました。
しっかりしてる!
あと、これもやっておいてよかったな、と思うのが録音です。言われたことって耳で聞いても忘れてしまうので、スマホで録音しておくと、あとで聞き返せるし、家族にも正確に伝えられますよね。もしかすると高圧的な先生の場合、ちょっと態度が柔らかくなるかも(笑)。
確かに、ちょっと言葉を選んでくれそうですよね。
「家族にも聞かせたいので、録音させてもらいますね」と一言伝えると、スムーズにできそうです。
それはイイですね。
物を修理するときプロに依頼するのと同じように、先生は体のプロなので、私たちは体の修理をお願いする依頼主。だから先生は頼まれた仕事をしてくれる。そう考えれば、立場は対等です。こちらも「納得できる治療を受けたい」という気持ちをしっかり伝えていいんですよね。もし違和感があったり、不安が残るようなら、病院を変えるのも選択肢の一つだと思います。
自分の体って他にはない大事なもの。やっぱり、納得ができる先生に治療してもらいたいですよね。
もちろん先生によりますけど、まずはこちらから「よろしくお願いします」と信頼している姿勢を見せることも大事かなと思います。そうすると、先生も「この人にはしっかり応えよう」と感じてくれるかもしれません。
まずは、こちらから心を寄せていくことも、良いコミュニケーションの第一歩かもしれませんね。
参考
『がん情報サービス』には、医療者と上手に対話するコツが紹介されています。 ぜひ参考にしてみてくださいね! 「医療者と良い関係をつくるには」→https://x.gd/3cyuT
先生によってこんなに違う!?
医療者の対応あれこれ
病院での主治医の対応はどう感じましたか?
私の場合、自覚症状があったので、「もしかしてがんかも」という不安を抱えながら初診を受診しました。担当の先生は「私はハッキリ言いますから」と、その場で率直に診断を伝えてくれました。正直なところ、ハッキリとお話しされるのは私にとってはむしろ安心感がありましたね。
ただ、最近主治医が変わり、前の先生と新しい先生の対応が全く違うことに驚いています。前の先生はサバサバしていて、検診も5分程度。「どう?元気?」といった簡単な確認だけで終わってしまう感じで、聞きたいことがあっても言い出せない雰囲気でした。有名な先生で腕は確かだったのですが、少し冷たい感じでしたね。 一方、今の先生はとても寄り添ってくれて、「体に何か変化があればいつでも連絡して」と温かく声をかけてくれるので、安心できます。
私も告知を受けた先生はサバサバしていて「多分これ、がんだと思うよ。でも別に取ればいいんだから何の問題もないから、深刻に考えることもないよ」と言われたんです。私はがんと聞いてすごいショックだったし、「こんなに簡単に言うんだ…!」と驚きました。
私の最後の主治医もそんな感じでした(笑)。今日の検診で異常がなかったら卒業、というときに「再発などの不安があります」と話し始めたら、先生はそれを遮るように「何も不安はありません。大丈夫です」と、パソコンを見ながら伝え、最後に「これから気をつけてくださいね」とだけ。私は「いったい何を気をつければいいのか?」という疑問が残るまま帰ることになりました。
私は、家の近くにある私立の総合病院に行きました。まず予約を取る段階で、男性医師が良いですか、女性医師が良いですか?と聞かれて、女性医師を希望しました。担当してくれたのは、30代後半の女性の先生で、非常にサバサバした明るい印象の方でした。 高圧的な雰囲気はなく、状況を淡々と説明してくれたので、質問もしやすかったです。
実際、予約時間に合わせて来院すると、待ち時間も長くなりすぎず、長くても1時間ほどで診察を受けられました。 気になったことはきっちり聞きましたし、忙しいとは思うんですけど、ちゃんとその時間は私のために取ってくれるっていう感じがあったので、私は非常に良かったなと思います。
先生によって対応は全然違いますね。
そうなんですよ。ただ、病院の対応で気になったこともあって…。
卵巣がんと診断され、卵巣、子宮、大網、そして腹部リンパ切除の手術を受けたのですが、手術当日に入院し、手術を受けて、3日ほどで退院する流れでした。そんな中、手術当日は、担当医に手術の説明を受けられたのが、立ち話で、たった5分ほどしかなかったんです。正直、その短い時間では少し心もとないなと感じましたね。
言葉ひとつで変わる
患者の気持ち
医療者とうまくコミュニケーションが取れなかった時、相談した人や機関はありましたか?
私は入院中、薬剤師さんがとても頼りになりました。
抗がん剤治療を始める前に、手術の段階で1時間ほどかけて、副作用などについて詳しく説明してくれたんです。正直、怖かったですが、その分心の準備ができました。看護師さんももちろん支えてくれましたが、薬剤師さんは何でも聞きやすかったですね。 毎朝、「今日のお薬はこれです」と説明しに来てくれるんです。抗がん剤治療って人によって違うから、リスクや影響についても個別に丁寧に話してくれました。薬の知識が全くなかった私にとって、本当に心の支えになった存在でした。
私は放射線治療を受ける時、仕事との両立について主治医に相談しました。
すると、「放射線の先生に事情を話せば、時間の調整も考えてくれると思うよ」とアドバイスをもらったので、放射線科の先生に相談したんです。そしたら、「そんなわがまま言われても困る」とピシャリと言われてしまって……。 その言葉がショックで、悲しさと怒りがこみ上げてきました。でも、そんな時に看護師さんが間に入ってくれて、「放射線科の先生には私からも伝えてみるね」と声をかけてくれたんです。そのひと言で気持ちが少し楽になりました。やっぱり、患者の立場を理解して寄り添ってくれる存在がいることは、大きな安心につながるんだなと実感しました。
看護師さんの存在は心強いですよね。
本当にそう思います。あと、がんの告知を受けた時のショックが大きくて、なかなか周りの人に話せず、誰に相談すればいいのかも分からなくて悩んでいました。そんな時、病院内にある相談室の存在を知り、思い切って利用してみたんです。そこでは、がん経験者の方がボランティアとして話を聞いてくれる「ピアサポート」があって。実際に同じ経験をした方の話を聞くことで、不安が少し和らぎました。
私は入院中、4人部屋だったのですが、たまたま妊婦さんと同室になったんです。彼女は明るく出産のプランについて話していて……。
私は結婚して3年目、40代でがんに罹患しました。もしかしたら子どもを授かることができるかもしれないと期待もしていたんです。でも、手術で子宮を失い、その可能性が完全になくなったことを実感すると、カーテン越しに聞こえてくる彼女の声が、思いがけず胸に刺さってしまって……。食事ものどを通らなくなりました。 「こんなに自分はショックを受けていたんだ」と気づいて、看護師さんに「部屋を替えていただけませんか?」とお願いしたんです。その時、涙が止まらなくなってしまって……。
すると、その日の夕方、主治医が診察に来て「申し訳なかったですね」と声をかけてくれました。そのひと言に、とても救われました。 やっぱり、自分の気持ちを伝えることで、医療者もできる限りの配慮をしてくれるんだと感じました。
やっぱり、患者側も気持ちを伝えることが大切ですね。
はい。抗がん剤治療に迷いを感じていた時も、オンコロジーセンターの薬剤師の先生がとても印象的な説明をしてくれたんです。
「がんって、体という畑にタンポポが生えたようなものなんです。手術でタンポポはとっても、綿毛が飛んで小さな種が体に残っているかもしれない。そして免疫力が弱かったのでがんになったのだから、それらが一斉に芽吹く前に、抗がん剤でしっかり取り除くんですよ」。
この話を聞いて、最初は「がん細胞が散っていなかったら無駄になるのでは?」と思い、抵抗があった治療も、納得して受けることができました。自分の免疫力だけでは足りない部分を薬の力で補うんだと理解できたので。
なるほど。言葉ひとつで、気持ちが大きく変わることってありますよね。
後半は後半では、医療者との付き合いをよくするためにしてほしいことや、患者の心構え、セカンドオピニオンなどについてお話ししていただきます。お楽しみに♪
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