がんは1981年から日本人の死因トップで、2人に1人が生涯でがんにかかる時代です。
一方、がんと診断されてからの5年生存率は64.1%で、診断法や治療法の改善により完治する人が増えています。しかし、多くの人がまだがんを不治の病だと誤解し、がんと診断されるとネットで見つけた怪しい治療法に飛びついたり、仕事を辞めたりしてしまう人が少なくありません。
こうした誤解を防ぐためにも、がんに関する基本的な知識や信頼できる情報源を事前に知っておくことが重要です。そこで、がん情報の現状や信頼できる情報の探し方などについて国立がん研究センターの若尾文彦先生にお話をお伺いしました。
中編では、確かながん情報の提供を行う「がん情報サービス」や、誰もが無料で相談できる「がん相談支援センター」の活用方法について詳しくお聞きしました。
(上)インターネットで探す、正確ながん情報の見分け方
(中)信頼できるがん情報は「がん情報サービス」、相談は「がん相談支援センター」へ! ←今回はココ
(下)つくるを支える 届けるを贈る「がん情報ギフト」 プロジェクト
Profile
がん対策情報センター本部 副本部長
若尾 文彦(わかお ふみひこ)先生
1986年横浜市立大学医学部卒業。
国立がんセンター病院レジデント、がん専門修練医を経て、国立がんセンター中央病院放射線診断部医員、医長(98年)に就任。画像診断に従事しながら、国立がんセンター情報副委員長として、ホームページからのがん情報の発信に取り組む。2006年がん対策情報センター開設に伴い、センター長補佐となり、センター長、がん対策研究所事業統括などを経て2023年4月より現職。がん情報サービスの運用に従事している。
目次
確かな情報が見つかる「がん情報サービス」
──上編でお話しいただいた「かちもない」はすごくわかりやすいですね。ただ、がんと診断された直後のような身体的にも精神的にも余裕がない状態で1つ1つの情報を見極めるのは難しそうに感じます…
若尾:
そうですね。そんなときには、あらかじめ、確かな情報の在りかを知っておくことが大切です。国立がん研究センターが運営するウェブサイト「がん情報サービス」はその確かな情報源の一つとなります。
「がん情報サービス」は、がん対策について定めた日本の法律「がん対策基本法」に基づいて、患者さんに正しい情報を伝える目的で作成されています。
誤解してほしくないのは、「がん情報サービス」が国立がん研究センターで作成している独自の情報ではないことです。
国立がん研究センターが運営していますが、医学系学会、全国のがん診療連携拠点病院、がん相談支援センター、厚生労働省、さらに全国の100人の患者さんやご家族にもご協力いただいて情報を作っています。
さらに、外部の専門家や患者さんを含む「がん情報編集委員会」が、公平性や中立性、バランスを大切にし、情報が偏らず、患者さんに有益でわかりやすく、傷つけないかどうかをしっかりとチェックして公開しています。
▼関連リンク「がん情報サービス」このサイトについて
「がん情報サービス」編集方針・治療に関する内容では、最新の科学的根拠に基づく情報であり、科学的根拠に基づかない情報である場合は、臨床的に明らかな誤りがない。
・患者、家族等にとって、担当医をはじめとする医療者とのコミュニケーションに役立つ情報である。
・患者・家族等が最低限知っておくことが望ましい基本的な情報を主とする。
・全体としての情報量に偏りがない。
・患者・家族等にとってわかりやすい情報である。
・スマートフォン等でも容易に読んで理解ができる範囲の情報量である。
・定期的な更新による最新の情報である。
「がん情報サービス」の見方
──「がん情報サービス」にはどのような情報が載っているのでしょうか?
若尾:
トップページの上部にある「病名から探す」「治療と生活」「制度やサービス」「世代別の情報」「予防・検診」「資料室」が一般向けサイトの大きなカテゴリーを示していています。
それぞれの項目をクリックすると、配下に含まれる主な情報のリストが表示され、そのリストの項目をクリックすることで、該当コンテンツに移動することができます。
さらに、右上にある「医療関係者向け」「がん統計」「がんの臨床試験を探す」と右下にある「相談先・病院を探す」のアイコンが別サイトとして、これらの情報を提供しています。
スマートフォンでは、画面右上のメニューをタップするとこのカテゴリーや別サイトへのリンクを掲載したページが開きます。
ページの一番下に医療者向けサイト、統計サイトを含む主なコンテンツのサイトマップが表示されています。
このように、非常に幅広く沢山の情報が掲載されていますが、まず、多くの方が利用されるがん種別の情報である「病名から探す」について、ご紹介します。
「病名から探す」では、「部位・臓器から探す」「50音順から探す」「日本に多いがん」の3通りからご覧なりたいがん種を探すことができます。
ご覧になりたいがん種を選ぶと、そのがん種のトップページが表示され、「○○がんについて」「検査」「治療」「療養」「臨床試験」「患者数(がん統計)」「予防・検診」「関連リンク・参考資料」という各ページへの入口となるボタンがあります。その下に関連する情報として、「がんと診断されたあなたに知って欲しいこと」「治療にあたって」「ご家族、まわりの方へ」へのリンクがあります。
一番下には主ながん種のみになりますが、そのがんの情報をまとめた冊子(PDF)へのリンクがあります。
各ページを見るときに大事なのが、ページの下部の目次の上にある「更新・確認日」〇〇年〇月〇日[履歴>]というのがありますので、この[履歴>]をクリックすることで、いつどのような更新がされているかを確認することができるようになっています。
若尾:
さらに各ページには、単元ごとに、難しい言葉について「用語集」へのリンクや関連する情報への「関連情報」リンクがあります。
特にこの「関連情報」には、そのがん種に限らず、横断的な情報へのリンクもあり、いちいち、「治療と療養」や「制度やサービス」に入り直さなくても直接飛べるので、便利です。
具体的には「がんやがんの治療による性生活への影響」など、なかなか医療者に聞きにくいような話や「アピアランスケア:がん治療による外見の変化とケア」についても、今年にはいってからコンテンツを追加しました。
巷では、外見に対するアプローチが強調される対応が行われていることもありますが、本来は、多職種の医療者によって、医学的、社会心理学的なサポートを包括して実施されるべきものです。関連リンクを含めてご確認ください。
さらに、「がんとお金」では、どういう補助が受けられるのか、どういう場合にどういう援助が受けられるかという患者さんにとって非常に大切な情報も提供しています。
がんになったら手に取るガイド
若尾:
「がん情報サービス」の書籍版として「がんになったら手にとるガイド」があり、がん情報サービス「資料室」からPDFファイルをダウンロードして読めるようになっています。
これには「わたしの療養手帳」という付録がついています。
使い方としては、診察の時に聞いた話を整理して、書き出したり、自分の価値観を医師に伝えるためにメモをとっていただいたりして、外来の場で主治医とのコミュニケーションを助けるツールとして利用していただきたいです。
──記録をすることで自分と向き合えたり、冷静にもなれると思うので、こういうのがあると本当に助かりますね。
がんと診断されたときに注意してほしい4つの「あ」
若尾:
そして、いざ、当事者となったときに、思い出してほしい4つの「あ」があります。
若尾:
がんと診断されたら落ち込んで、頭が真っ白になって、何も考えられないことは、多くの方に起こることです。
①当たり前
だから落ち込むのは、当たり前のことであって、あなたが情けないわけではないということ。
②あわてない
今は、治療に専念するということではなく、仕事と治療を両立させることができるようになってきました。仕事についていることで、受けられるサポートもあります。だから、慌てて仕事を辞めないで。
③あせらない
例えば入院が3ヶ月先ですと言われると、皆さん焦ってしまって、ネットで別の治療を探したりして、甘い言葉に惹かれたりすることもあります。あせって怪しい情報にすぐに飛びつかないで。
④あきらめない
医学は日々進歩しています。5年生存率が悪いと言われてもそれは古いデータであって、その後、新しい治療が開発され、予後が改善されているかもしれないので、あきらめないで。さらに、主治医がぶっきらぼうで聞きたいことを聞きにくくても、とにかく先生があなたの一番大切な情報源なので、主治医に聞くことも諦めないで。
▼関連リンク「NHK首都圏ナビ:がん 標準治療 自由診療とは 国立がん研究センター若尾文彦医師が解説 注意すべき医療機関は…」
誰でも無料で相談できる「がん相談支援センター」
全国に461の病院に設置されている「がん相談支援センター」
──「がん相談支援センター」について教えてください
若尾:
「がん相談支援センター」はがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院に設置されています。
がん診療連携拠点病院などは、がん医療圏(高校の学区ぐらいの広さ)に原則として1箇所、都道府県知事からの推薦で厚生労働大臣が指定を行っています。
がん診療連携拠点病院には、「都道府県がん診療連携拠点病院」と「地域がん診療連携拠点病院」があり、「地域がん診療連携拠点病院」では、そのがん医療圏内の医療機関と連携しながら、がんの治療と情報提供、相談支援を行います。そのために、「がん相談支援センター」が設置されています。さらに、「都道府県がん診療連携拠点病院」が各都道府県のがん医療提供や相談支援体制などをまとめています。
若尾:
現在、都道府県拠点51+地域拠点348+1(鹿児島に乳がんだけ対応する病院、社会医療法人博愛会相良病院が全国で1つだけあります)の拠点病院が400あります。
拠点病院になるためには体制や実績などの厳しい要件があり、特に地方だとその要件を満たせない病院が多く、その地域が空白にならないように、「地域がん診療病院」というやや要件が緩和された病院が、61あります。合わせると現在、がん拠点病院などは全国に461になります。
そこには必ず「がん相談支援センター」があって、最大のポイントは
誰でも相談できる(病院にかかっていなくても)
という点です。
通常、病院の相談窓口はその病院にかかっている人しか相談できませんが、かかってない方でも相談できます。
「がん相談支援センター」の相談員は看護師さん、医療ソーシャルワーカーで国立がん研究センターで研修を受けた方が対応してくださっています。
がんに関する幅広い相談内容
──「がん相談支援センター」ではどのような相談ができるのですか
若尾:
相談内容は、
- がんに関する一般的な情報の提供
- 地域の医療機関、医療従事者に関する情報の収集や提供
- セカンドオピニオンができる医師の紹介
- がん患者の療養上の相談
- アピアランスケアに関することや妊孕性の温存の相談
- 就労の相談
- お金の相談
など、治療だけでなく、生活全般について幅広く対応しています。
「がん相談支援センター」の探し方
──利用したい「がん相談支援センター」を探すにはどのような方法がありますか
若尾:
「がん情報サービス 相談先・病院を探す」でも探せますが、ネットで探すのが大変だという方は、国立がん研究センターが運営する相談窓口「がん情報サービスサポートセンター」で簡単な相談に応じたり、お住まいの近くや患者さんの相談に合った「がん相談支援センター」をご紹介していますのでご活用ください。ナビダイヤルで、全国統一料金で特に遠隔地では、通常の市外通話より安く利用できます。
(上)インターネットで探す、正確ながん情報の見分け方
(中)信頼できるがん情報は「がん情報サービス」、相談は「がん相談支援センター」へ! ←今回はココ
(下)つくるを支える 届けるを贈る「がん情報ギフト」 プロジェクト
【インタビュー記事担当者】
編集長:上田あい子
編集ライター:友永真麗
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