(前編)第4回 がん患者を支えるために、いま医療現場で必要なこと

今回は、看護師経験を活かしてがん患者さんに寄り添う活動をされている方に、医療の進歩で変わってきた患者さんのニーズや、それに対する医療現場の課題についてお話を伺いました!

参加者の自己紹介

YUNI
YUNIさん

現場で10年間看護師として働き、多くのがん患者さんに関わってきました。特に乳がんの患者さんとは、検診から検査、告知、外来化学療法、手術まで多岐にわたる場面で関わってきました。しかし、医療現場だけではメンタルケアが十分に行えないと感じ、現在は看護師経験を活かして乳がん患者さんのサポーターとして活動しています。最近では乳がん以外の患者さんからもSNSでフォローをいただき、さまざまながんの患者さんと向き合っています。

石原さん
石原 ほのかさん

私は現場で3年半ほど働いた後、「医療アートメイク」の分野で活動している看護師です。がん治療による眉毛の脱毛で、見た目の変化に悩む患者さんは多くいます。眉毛の重要性を伝え、アピアランスケアの一環として「医療アートメイク」という選択肢があることを広める活動をしています。

木原さん
木原 海智瑠さん

病院に勤務していたころ、乳がん患者さんの治療やその後の再建などに携わっていました。現在は「医療アートメイク」で乳輪や薄毛のケアの技術を取得し、美容と訪問看護の自由診療を提供する会社を経営しています。

上野さくらさん
進行役:上野 さくらさん(仮名)
乳がん・血液がん経験者

医療の進歩に伴い、これから
ますます必要になるアピアランスケア

医療の進歩に伴い、治療を受けながら働いたり、がんを乗り越える患者さんが増えてきました。そういったがん患者さんを支えるために、現在の医療現場で足りないと感じることや、「こういうことがあったらいいな」と思うことはありますか?

がん患者さんが治療に前向きになり、社会復帰するためには、医療現場でのアピアランスケア(外見のケア)をもっと充実させる必要があると思います。

本当にそうですね。薬もどんどん進歩してきて、最近では脱毛のないお薬も登場しています。でも、まだまだ多くの抗がん剤治療で脱毛の副作用があり、患者さんもその脱毛を非常に気にしています。ただ、「脱毛=髪の毛」というイメージが強く、医療者も患者さんも髪の毛には強く関心を持っている一方で、眉毛やまつ毛、耳や鼻など他の部分の脱毛や爪のケアなどについては意識が低いように感じます。

そうなんです! 私はもともと美容のための「医療アートメイク」の仕事をしていましたが、抗がん剤治療中の方や脱毛症の方からもお問合せをいただくことがありました。その中のお一人が、「抗がん剤の副作用で眉毛が抜けるなんて想像していなかったし、眉毛がなくなるとこんなに顔の印象が変わるとは思わなかった…。それなのに、アートメイクをお願いしようとお店に行ったら、抗がん剤治療中だから安全性がわからないと言われて断られてしまい、すごくショックでした」と話してくれたんです。その言葉を聞いて、がん患者さんのために「医療アートメイク」を広める活動を始めました。

素晴らしいですね! まつ毛は市販のつけまつ毛を利用できるし、耳や鼻は隠れているので脱毛してもわからないけれど、眉毛は大事な顔のパーツですもんね。

はい、眉毛が抜けた自分の顔を見て、大変ショックを受ける患者さんは多いです。

今は、治療をしながら社会復帰されている方も多いので、「外見のケア」としてウィッグだけでなく、眉毛やまつ毛の脱毛、肌や爪のケア、手術の傷跡やリンパ浮腫など、さまざまな面でのケアが求められています。

その通りです。がん患者さんが外見の変化に安心して向き合えるように、アピアランスケアの充実は欠かせませんね。

ええ、アピアランスケアは単なる美容の問題ではなく、患者さんの生活の質や精神的な安定を支えるための大切なサポートだと思います。

患者さんの外見ケア
医療者の意識がカギ?!

患者さんの外見ケアについては、医療者個人の意識や知識にかなり差があると感じます。医師や看護師の中には、美容にすごく興味がある人もいれば、全く興味がない人もいます。美容に興味がある人は外見ケアに関する情報を積極的に集めますし、興味がない人はどうしても関心を持ちにくい傾向にあると思います。

それはあるかもしれませんね。性別も関係ありそうです。

そうですね。お肌の調子が悪いことが女性にとってどれだけ機嫌を左右するか男性には分からないように(笑)。
そのような“個人の差”が生じないように、外見ケアに関する知識を医療者全体で共有し、理解を深めることも大切だと思います。

外見のケアに関して看護学校で講義はあるんですか?

私が通っていたときはありませんでした。学校で教わるのは命に携わる部分で、メンタルケアなども少なかったと思います。

そうなんですね。今後、医療者の資格試験のカリキュラムに、外見ケアやメンタルケアの項目がもっと充実すると良いですね。

気持ちがあっても
現場では十分なサポートは難しい

私が20年前に乳がん患者さんと関わっていた頃は、アピアランスケアを提供することなんて全くありませんでした。でも今は、医療現場での関心が確実に高まっていると感じています。

本当にそうですね。5年前と比べても、アピアランスケアへの関心は確実に高くなりました。ただ、まだ「命に直接関わらない部分」として軽視されがちなのが現状です。私は、治療や病気と向き合う上で、見た目のケアもとても大切だと思っています。でも、現場の経験から言うと、医療現場でアピアランスケアに十分な時間を割くのは難しいという現実もあります。

本当に現場って忙しいですよね。患者さんに細かく丁寧にお伝えしたくても、タイミングがなかったりします。

だからこそ、医療従事者以外のサポートが必要だと感じています。

そうですよね、医師の優先順位はやっぱり「命に関わること」が一番ですからね。外見の変化で患者さんが不安になることも理解して、信頼できる相談窓口と連携することで、患者さんをしっかりサポートできると思います。

それと、医療者はウィッグの説明や抗がん剤をしてから脱毛する時期などの説明のとき、「髪の毛だけじゃなくてまつ毛や眉毛など体のありとあらゆる部分の脱毛があります」と一言だけでも付け加えてると、患者さんも心の準備ができて捉え方も少し違うのかなぁと思います。

医師に患者の生の声が届く環境づくりが必要

医師と話していると、治療に少しでもリスクがある場合は、余計なことは避けたいという考えが強いと感じます。

そうですね。医師はリスクを極力避ける必要がありますからね。

でも、患者さんからの要望が多く寄せられると、それを取り入れることもあります。たとえば、「脱毛で悩んでいる患者さんが多いので、こういったサポートがあれば治療がスムーズに進む」といった生の声が医師に届くと、その病院でもサポートを導入したり、パンフレットを設置するなどの対応がされることがあるそうです。

何かを変えたい時には、当事者の声や情報を届け続けることは大切ですね。

はい。実際、患者さんにとって先生に直接言うのは勇気がいることだと思うので、看護師や他の医療従事者が患者さんの悩みを聞いたら、それを医師に伝える情報の共有が医療現場で進むといいですよね。

患者さんの悩みや要望を積極的に医療チームで共有していくことが、より良い治療効果につながり、患者さんが不安なく自分らしく日常を過ごせるようになりますね!

後編後半では、がん患者さんが必要な情報を得られるようにするためにはどうすれば良いか、医療現場からの情報提供の仕方、そしてその課題についてお話を伺います!

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