インターネットで探す、正確ながん情報の見分け方

がんは1981年から連続して日本人の死因トップとなっています。毎年約95万人ががんと診断され、38.5万人が亡くなっています。生涯でがんに罹る確率は男性が62%、女性が49%で、2人に1人ががんになる時代です。

一方、がんと診断されてからの5年生存率は64.1%で、診断法や治療法の改善により完治する人が増えています。

しかし、内閣府が行った世論調査では、「2人に1人ががんに罹る」「5年生存率が50%を超えている」と知っている人は非常に少なく、いまだにがんは稀な病気で不治の病だと誤解されているのが現状です。

出典:「がん対策に関する世論調査(平成28年11月調査)」(内閣府)
https://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-gantaisaku/zh/z03.html
多くの方ががんに関する誤った認識をしています

そのため、がんと告知されると出会うことのない大事件!とパニックとなり、ネットで見つけた怪しい治療法に飛びついたり、仕事を辞めたりしてしまう人が少なくありません。また、会社から解雇されるなど、がん患者はさらに困難な状況に追い込まれることもあります。

こうした状況を防ぐためにも、がんについての最低限の知識や、がんに罹ったときに確かな情報を探す方法、信頼できる相談窓口をがんになる前から知っておくことが大切です。

そこで今回は、国立がん研究センターの若尾文彦(わかお・ふみひこ)先生に、インターネット上でのがん情報の現状や、信頼できる情報を探すポイント、「がん情報ギフト」の取り組みについてお話を伺いました。

(上)インターネットで探す、正確ながん情報の見分け方←今回はココ
(中)信頼できるがん情報は「がん情報サービス」、相談は「がん相談支援センター」へ!
(下)つくるを支える届けるを贈る「がん情報ギフト」プロジェクト

Profile

国立研究開発法人国立がん研究センター
がん対策情報センター本部 副本部長
若尾文彦(わかおふみひこ)先生1986年横浜市立大学医学部卒業。
国立がんセンター病院レジデント、がん専門修練医を経て、国立がんセンター中央病院放射線診断部医員、医長(98年)に就任。画像診断に従事しながら、国立がんセンター情報副委員長として、ホームページからのがん情報の発信に取り組む。2006年がん対策情報センター開設に伴い、センター長補佐となり、センター長、がん対策研究所事業統括などを経て2023年4月より現職。がん情報サービスの運用に従事している。

確かながん情報に出会うために大事な4つのこと

──今、インターネット上にはたくさんのがんに関する情報がありますが、その中から“確かな情報”を見分けるにはどうすればいいのでしょうか?

若尾:
がん患者さんは、出会う情報によって救われることもあれば、取り返しのつかない状況に陥ることもあります。巷には怪しいがん情報が多く存在します。そこで、がん患者さんやそのご家族が確かな情報を見つけるために知っておくべき4つの大切なことをご紹介します。

  1. 医療や医療用語についての最低限の正しい知識
  2. “どうしてそうなるか”を考える
  3. 何に基づいた情報であるか確認する
  4. 統計に基づいた考え方

これらのことを意識しながら情報に接し、「いい情報を見つけた!」とすぐに飛びつくのではなく、「懐疑的、批判的に吟味する」という癖をつけることで、自分の健康や治療に関する最適な対応に役立てることができるようになります。

それぞれについて詳しくご説明します。

1.医療や医療用語についての最低限の正しい知識

若尾:
まず、医療情報の正しい知識についてお話しします。

世の中には、科学的根拠(エビデンス)に基づかない情報が溢れています。インターネットやメディア、本などですね。そして、大変残念なことですが、医師や医療機関でも科学的根拠に基づかない情報を提供し、高額な自由診療やサプリメントを勧めることがあることを知っておきましょう。

Webで情報を探すときの注意点

若尾:
今はネットで何でも調べることができますが、医療情報の検索には注意が必要です。

若尾:
例えば上図は、Google(左)とYahoo!(右)それぞれで「肺癌治療」というキーワードの検索結果です。検索エンジンでは、広告記事が上位に掲示されます。これらの広告記事は、お金を払えば優先的に表示される仕組みで、情報の正確さや信頼性には関係ありません。つまり、検索エンジンで上位に表示される情報が必ずしも正しいとは限らないのです。

広告を見分ける自信がないようでしたら、Yahoo!で「肺がん」「肺がん検査」「肺がん治療」「肺がん症状」などシンプルな言葉で検索することをお勧めします。Yahoo!では、このような言葉で検索すると必ず「がん情報サービス」が出てくるように対応してもらっています。是非、検索してみてください。(下図左)

検索するときに気をつけなければいけないのは「最新治療」「最先端」などのキーワードを入れると科学的根拠に基づかない広告などが多く、掲出されてしまいます。(下図右)

──調べ方が大事なんですね! つい「最新」などの言葉の方が治療の効き目がありそうなので調べたくなってしまいますね…

若尾:
そうなんです。確かながん情報をWebで検索するときはシンプルなワードを使うということも大事なポイントです。

──インターネット情報の信頼性というのはどれくらいなのでしょうか

若尾:
2018年、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科グループが、インターネットのがん情報の信頼性についての研究を行い、海外の学術雑誌に論文が掲載されました。その内容は、5つのがん種(肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、肝がん)と治療/治癒というキーワードで検索してがん種別トップ20サイト合計247サイト(全て日本のサイト)を調べてみると、科学的根拠に基づいているものが約10%、間違った情報が約38%、どちらでもないが約50%という結果でした。

Googleもこのような状況を改善するため、医療従事者や専門家、医療機関から提供される信頼できる情報を検索結果の上位に表示するようにシステムの変更を行い、その後も繰り返し改修しています。しかし、現状でも科学的根拠に基づかない情報を発信している医療機関のサイトが、広告ではない形で上位に表示されることがあります。

2022年からYouTubeでも同じように、「医療/健康の専門家による情報」を別枠として、表示するように変更しましたが、googleと同様に科学的根拠に基づかない情報を発信している医療機関の情報がこの枠に表示されてしまっています。

「最新治療」と「標準治療」どちらが効果的な治療?

──先ほど、「最新治療」「最先端」という言葉で検索すると信頼性に乏しい記事が出てくると言われましたが、どちらの言葉も効果がありそうなイメージがあるのですが…

若尾:
そうですよね、では次に、最低限知っておいて欲しい医療用語に関することについてお話しします。

「標準治療」とは、普通の治療という意味ではありません。しっかりと科学的な手法によって最善・最良な効果があって、かつ安全であることが確認されている治療が「標準治療」と呼ばれます。
「最新治療」に飛びついて治療に大金を投じ、深い後悔を抱える患者さんも少なくないと言われています。
言葉の意味を正しく理解しましょう。

若尾:
「標準治療と最新治療、どちらがいいですか?」と、多くの方に聞くと「最新治療がいい」と答える方がほとんどです。しかし、実際には「標準治療」こそが現時点で最善・最良の治療法です。

新しい治療が登場した場合、必ず臨床試験(治験)という厳格なルールに基づいて研究が行われます。この研究で新しい治療法と当時の「標準治療」の効果を比較し、より良い効果が確認されたものが「(新しい)標準治療」となる仕組みです。

つまり、「最新治療」というと、まだ実験的・研究段階の治療を指します

──そうなんですね、言葉のイメージで捉えると「最新治療」の方が優れているように感じますが、実際には「標準治療」の方が科学的に最も効果があり、安全性も確認されている治療法なんですね。

若尾:
「標準治療」を決めるのは、ボクシングのタイトルマッチを例にとるとわかりやすいです。

現在の標準治療がチャンピオン、新しい治療が挑戦者と考えます。挑戦者が勝って(効果があると確認されて)、新しい標準治療になると、それが保険診療に適用され、各学会が作成するガイドラインにも載る仕組みです。

効果が言葉のイメージに影響されるということはありますね。一般的な他のサービスだと高価なものほど良いサービスを受けられたり、良い商品を購入できます。安価なサービスや商品は質が悪いイメージがありますからね。医療はその逆です(*)。それを知らずに自由診療で何百万円もする治療法を見ると「これは高いから効果がありそう」と誤解が生まれてしまうのかもしれません。

(*)歯科については、保険適応だと銀歯しか入れられないけれど、高額払うとセラミックの白い歯が入るなど、少し特殊な医療もある。

「標準治療」と「最新治療の自由診療」を2つ並べると同格に見えてしまうのですが、下図のように、治療の信頼性としての立ち位置は大きく異なるものであることが確認できます。

「標準治療」と「自由診療」のレベルの差はかけ離れています。

若尾:
がんへの対応は、「標準治療」とまだ承認されていない「未承認治療」の2つに分けられます。

未承認治療には、現在、治験などで効果を確認しているものや、厚生労働省が認めた先進医療(新しい治療法の効果を評価するために、未確立の部分を自費診療、その他の部分を保険診療とする混合診療を認める評価療養という特別な仕組み)があります。

問題は、研究も評価もしていないまま、最新医療として提供されている「自由診療」や、「民間療法」(医療機関以外が提供するもの)が存在することです。標準治療との間には、大きな格差があることを知っていただきたいです。

2.“どうしてそうなるか”を考える

若尾:
確かな情報かどうかを見分けるには、因果関係も大切です。

見つけた情報に対して「なぜそうなるのか?」という原因や理由を考える習慣をつけましょう。

新しい治療薬の効果を確認するには、ランダム化比較試験(RCT)という方法が必要です。それは、患者さんをその薬を飲んだグループと飲まなかったグループにランダムに振り分け、その効果を正確に検証する手法となります。

例えば、がんではありませんが、風邪薬の効果を確認する場合、熱が出てある薬を飲んだら治りましたということで、単純に薬の効果を確認することはできません。なぜなら、飲まなくても治る可能性があるため、本当にこの薬で治ったのか区別がつきません。だからこそ、ランダム化比較試験が必要で、この方法以外では、その治療薬が本当に有効かどうかを正確に知ることはできません。

科学的根拠(エビデンス)のレベルで見てもランダム化比較試験を統合したものや患者数が多いものが一番レベルが高く、信頼度が高くなります。

3. 何に基づいた情報であるか確認する

情報源はどこか?

若尾:
確かな情報かどうかを見極めるには、情報源も大事です。

信頼性が最も高いのは学術論文で、次に診療ガイドラインが続きます。学会発表の信頼性は少し低くなります。これは、学会発表が新しい研究成果を発表する場であり、まだ査読(専門家によるチェック)を受けていない情報だからです。

また、書籍やテレビ番組で紹介された情報であっても、論文などに基づかない個人の意見であることもあり、必ずしも信頼できるとは限りません。逆にインターネットの個人ブログであっても、海外の論文を情報源として、翻訳して提供するなど、信頼性の高い情報であることもあります。ですから、「情報源が何か」を確認することが、確かな情報かどうかを判断する大切な基準になります。

いつ作られた情報か確認する

若尾:
情報がいつ作られたかも確認しましょう。

医療は多くの研究によって日々進歩しています。これまで確かであると考えられていた情報が、研究が進んだことで、新しい情報に置き換わることもよくあります。

例えば、5年前には標準治療だった治療法が、今では標準治療ではないことも多くあります。古い情報や、いつのものであるかが不明な情報は、そのまま信じない方が賢明です。

情報の判断基準として、3年以内の情報が理想的ですが、少なくとも5年以内の情報を目安にすると良いでしょう。

NHKの番組「今日の健康」(初回放送日:2023年1月17日)でネット情報を見るときのポイントを紹介させていただきました。是非、参考にしてみてください。
「絶対に知ってほしいこと3選「信頼できるサイトは1割ほど」

4.統計に基づいた考え方

若尾:
データを見るときには、統計に基づいた考え方も大切です。

たとえば、3人に副作用が出たという新薬があった時に、5人のうちの3人か、1万人のうちの3人かは、大きく異なってきます。また、病院の5年生存率を比較するとき、単に数字だけをみるのではなく、患者さんのステージや年齢の状況なども確認することが重要です。

つまり、全体像であったり、対象となっている集団の状況を見ないと、誤った判断をしてしまうことがあり注意が必要です。

5.その他の注意点

「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」に注意!

若尾:
インターネット上の情報は、すべてが均等に届くわけではありません。自分の興味や関心に基づいて、フィルターがかかった状態で情報が届けられます。これを「フィルターバブル」といいます。

例えば、「免疫療法」を一度検索すると、その後は免疫療法に関する広告や話題がたくさん表示されるようになります。すると、「免疫療法が今こんなに流行っているんだ」と誤解してしまう危険性があります。

──一度検索したものが、追いかけてくるようにいろんな場面で表示される経験は多くの方がしたことあると思います

若尾:
はい。そのため、インターネットで見かける情報は、非常に選ばれたものが自分に届けられていることを知っておくことが大切です。

それと、SNSなどで発信者Aがいて、その人に多くのフォロワーがいる場合、あなたがたまたまその情報に触れることがあります。例えば、Aが「抗がん剤は使わない方がいい」と発信すると、フォロワーたちが「そうだそうだ!その通り!」と強く共鳴します。これを「エコーチェンバー(反響室)現象」といいます。

この現象により、「みんながそうだと言っている、Aの言うことは本当らしい」と誤解してしまうことがあります。反対意見を持つ人はブロックされてしまうので、偏った情報が伝わる危険な状況が生まれます。「エコーチェンバー」の危険性も理解しておくことが大切です。

──一番最初に若尾先生が言われていましたが、情報を簡単に信じない、疑う習慣が大切ですね

思考の錯覚

若尾:
インターネットの情報は、賢い人でも騙され流可能性があります。それは、規則性のないところに規則性を見出してしまったり、何もないところに因果関係を自分で作ってしまったり、仮説に合う情報を探し当ててそれを重視したり、既に持っている信念に影響されます。

例えばその方がある程度インテリジェンスが高い方で、社会的にも成功している方だとすると、今まで自分の判断は間違えることはなかったと自信過剰なことがあり、「私だからこんなすごい情報を見つけられに違いない。高額な自由診療の費用を負担できる経済力もある」と思って、誤った情報にはまりこんでしまうようなこともあります。

インターネットの性質を理解し、思考の錯覚に陥らないためにも科学的な考えや統計をしっかり見ていただくことが必要です。

確かな医療情報を見極める5つのポイント

若尾:
これまで、正しいがんの情報に出会うために大事な4つのことをお話ししてきました。

  1. 医療や医療用語についての最低限の正しい知識
  2. “どうしてそうなるか”を考える
  3. 何に基づいた情報であるか確認する
  4. 統計に基づいた考え方

これらとは、一部異なりますが、聖路加国際大学教授であり、市民・患者の皆さんがヘルスリテラシーを身につけるための支援をするサイト「健康を決める力」を運営している中山和弘先生が情報を見極めるポイントを非常にわかりやすくまとめてくれています。

  • 書いた人は誰か
  • 違う情報と比べたか
  • もとネタはなに(情報の出どころはどこか)
  • 何のための情報か(営利目的の宣伝ではないか)
  • いつ(古い情報ではないか)

これを縦読みすると「かちもない」となります。これらの情報がわからない情報は「見る価値もない」と覚えていただいて、常にこういう注意を払って情報を見ていただくことが大切です。

▼関連リンクヘルスリテラシー健康を決める力「インターネット上の保健医療情報の見方」

(上)インターネットで探す、正確ながん情報の見分け方←今回はココ
(中)信頼できるがん情報は「がん情報サービス」、相談は「がん相談支援センター」へ!
(下)つくるを支える届けるを贈る「がん情報ギフト」プロジェクト

【インタビュー記事担当者】

編集長:上田あい子

編集ライター:友永真麗

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